第52回 御遺族不在のお別れ会

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第52回 御遺族不在のお別れ会

安田
のうひ葬祭さんでは、いわゆる一般的なご葬儀や家族葬などをやられていますよね。一方で、「お葬式にお坊さんを呼ばない」とか、「お通夜や告別式をせずに火葬だけにする」とか、そういうご葬儀の形も増えているんだそうですね。

鈴木
そうですね。そこは時代の流れに合わせて変わってきています。
安田
それで私は思ったんですが、最終的には「お葬式」という概念がなくなるんじゃないのかと。火葬は絶対しなくてはいけませんけど、その直前までの「お別れの仕方」については、今までとは全く違う概念でやり始める会社が出てくると思うんですよ。それについて鈴木さんはどう思われますか?

鈴木
うーん、どうでしょうかねぇ。僕はこの業界にどっぷり浸かっているので「全く違う概念」が出てくるのは難しいような気がします。そもそもお客様側がそういうことを望んでいるのかな、という疑問もありますし。
安田
例えば一昔前だったらお葬式なんてしんみりと厳かにするのが当たり前でした。でも今は、「お葬式はみんなで明るくやってほしい」という遺言を遺される方も増えてきているじゃないですか。実際、私もそうしてもらいたいですし(笑)。

鈴木
まあ確かにそうですが、あくまでも「お葬式」という形の中でやることが少しずつ変化しているだけなのかなとも思いますね。
安田
昔、鈴木さんと「縁会(えんかい)」というのを考えたじゃないですか。亡くなって2年後に仲間内で集まって「故人を送る会」をやるのはどうだろう、というような話をしたと思うんですが、覚えていらっしゃいますか?

鈴木
ええ、もちろん。でも結局それも、いわゆる「年忌法要」と呼ばれるものと大差がないんじゃないかなと思うんですよね。
安田
でもそれは御遺族が中心になってやるものですよね。私が言っているのは「故人の友人たち」が中心の会で。

鈴木
同窓会みたいなことですか? 故人を思い出してお酒を飲みながらワイワイ話して…というような(笑)。
安田
そうそう、まさにそんな感じで、御遺族とは関係なくやるんです。というのも「御遺族」と「故人の友人たち」では、心の持ちように大きな差があると思うんですよね。

鈴木
確かに「身内を亡くした人」と「知り合いを亡くした人」とでは立ち位置もかなり違いますからね。
安田
ええ。だからこそ御遺族は「ご葬儀」でしんみりと故人を送り、友人は「縁会」で盛り上がりつつ故人を送る。そういう棲み分けをしてもいいのかなと。

鈴木
なんだか「結婚式」と「披露宴の二次会パーティー」みたいな感じですね(笑)。今のお話を聞いていて思い出したことがあります。和歌山の知り合いの葬儀屋さんが「シェア葬」というサービスをやっていて。
安田
へぇ、シェア葬ですか。葬儀をシェアするんですか?

鈴木

香典を会費制にしたんですって。親族も友人も関係なく、招待された人全員から会費を集めて葬儀をする。要は、故人と縁のある人みんなで集まって送り出すそうなんですけど。画期的だなぁとは思いましたが、実際はあまり広まらなかったみたいですね。

安田
ああ、そうでしたか。やっぱり「ご葬儀」の場で御遺族と友人とを一緒くたにしてしまうと、結局「どっちつかず」の状態になってしまって、うまくいかないのかもしれないですね。

鈴木
安田さんは、あくまでも「葬儀=御遺族のもの」と考えた方がいいというわけですか。
安田
はい。正直な話、私も過去に何度か「社員のご両親」とか「昔お世話になった上司」のお葬式に行きましたが、別にそこまで親しい関係ではなかったりすると、たいして悲しくもないわけで…。

鈴木
笑。まあご葬儀って、仕事上の付き合いで義理で行くことも多いですからね。そういう場合は、悲しみの要素が少ないのは当然だと思いますよ。
安田
でも当然ながら御遺族はものすごく辛そうで、悲しみに打ちひしがれている。そんな中で、「悲しそうなふり」をしながらお焼香して手を合わせていることに申し訳なくなるわけですよ。

鈴木
確かにそうですね。だからこそご葬儀とは別に、故人にお世話になった人たちが一堂に会して「縁会」をやるわけですね。思い出話に花を咲かせる場として。
安田
そうそう。御遺族がいらっしゃるお葬式や法事でワイワイ大騒ぎするわけにはいかないので(笑)。ただそういう会をやるとしても、まとめ役となれるような幹事を見つけるのが大変だと思っていて。

鈴木
そうですね。結婚式の二次会の幹事だって、結婚する本人に直接頼まれるから、みんな断れずにやっているんでしょうし(笑)。
安田
笑。だから「幹事役」の部分を企業が代行してあげる。そういうサービスを作れば、きっと「新しい形のご葬儀」としてうまくいく気がするんです。

鈴木
なるほどなぁ。昔、安田さんと「縁会」について話していた時には、そんなことできるかなぁと半信半疑だったんですが(笑)。今、まさに僕らに「時代が追いついた」といったところでしょうか(笑)。
安田
そうですね(笑)。私、対談の冒頭で「全く新しい概念の葬儀が出てくるのでは」と言いました。でももしかすると、ご葬儀のやり方を変えるというよりは、新しい概念のサービスを作る方がしっくりくるのかもしれない。

鈴木
葬儀と縁会、それぞれの目的に合わせて、参加する人も明確に分けると。
安田
ええ。誰かが亡くなると、その人を介してつながっていた縁が切れてしまうのが普通だと思う。だからこそ、故人にゆかりのある人たちが集まる場として「縁会」というサービスを提案するんです。

鈴木
同窓会の葬式版、みたいなイメージですね。
安田
そうですそうです。集まるのは故人とつながりがあれば、仕事でも共通の趣味でも古くからの知り合いでも、どんな関係でもよくて。で、「あの人ってこんな人だったよね」とか「こんなことして面白かったんだよ」とかそういう思い出話を笑ってできる会にするんです。

鈴木
いいですね。御遺族とは違う立ち位置にいる人たちだからこそできる、故人とのお別れの場、ですね。
安田
はい。故人の人となりがよくわかるような面白い写真やエピソードを持ち寄って、賑やかに故人を偲ぶ。そういう新しいお別れの形があってもいいのかなと思います。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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