第50回 雑木の庭に欠かせない「余白」と「組み合わせ」

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第50回 雑木の庭に欠かせない「余白」と「組み合わせ」

安田

前回は、「雑木の庭」が流行ってるというお話でしたけど、普段家でリラックスしながらお庭を眺めることを考えると、確かにあまり作り込まれてない方がいいかもなぁと思ったんです。


中島

そうですね。昔のカッチリした日本庭園より、カジュアルな雰囲気を好む方が増えているんだと思います。

安田

壮大な日本庭園が見たかったら皇居とかに行けばいいわけで、普段使いにはもう少し里山的というか、気楽な感じがいいのかなぁと。でもそれはそれで、塩梅が難しそうですよね。


中島

「どこまで作り込むか」のさじ加減ということですか?

安田

そうですそうです。林をそのまま持ってきたら、ただの竹藪みたいになってしまうでしょう? かといって、あまり手を加えたら自然な雰囲気が消えてしまう。


中島

仰ることはよくわかります。結局「人の手が入っていないように見えて、実はしっかり手を入れている」というのが最適解かもしれませんね。

安田
ああ、なるほど。「いかにも人が作りました」みたいにならないよう、でもしっかりと技術を使って作り込むと。でも、それって「言うは易し」という話だと思うんです。どうやったらそんなお庭が作れるんですか?

中島
まず考えるのは木の本数ですよね。多すぎるとどうしてもうっとうしくなってしまうので、植栽は7割くらいに抑えて。
安田
ははぁ、余白を残すわけですか。

中島

ええ。でも、ただバラバラと余白を作ればいいということではなく、木がまとまって植えられているところと、視線が抜けるところをバランスよく配置する必要があります。

安田

ああ、なるほど。均一に隙間を空ければいいというわけじゃないんですね。


中島
そうですね。隙間だけでなく高低差も考慮しますし、冬場も常緑の下草が残るようにしたりと総合的に考えていくので、経験値や勘が重要になってきます。
安田

そうか。いろんな角度からの見え方や、季節ごとの景色も考えて作られてるわけですもんね。それこそプロの知識と技術がないとできないですね。AIに丸投げしてもなかなかうまくいかないんだろうなぁ。


中島

確かに、ちょっと不自然になってしまうかもしれませんね(笑)。

安田

ですよね(笑)。でもそこまで細かく考えられていても、いちいちお客さんには相談しないわけですよね。「こういうバランスで間引きましょうか」とか「ここにこうやって空間を作りましょうか」とか。


中島
そこまで事細かにはご相談しないですね(笑)。もちろん大まかな方向性はお伝えしますけど、実際言われてもなかなかピンと来ないと思いますし。
安田

そりゃそうか。相談されても、「いや、ここは樹種を変えて十センチ左寄せで……」なんて反応にはなりませんもんね(笑)。素人にそこまで細かいオーダーはしようがないというか。


中島

そうですねぇ。そもそも仕入れのタイミングによってその時に置いてある木の形はさまざまなんです。だから樹種をご指定いただくよりは、ある程度お任せいただいた方がベストな組み合わせで配置できるかなと。

安田

なるほど。そこはおとなしくプロの審美眼に頼った方がよさそうです。それに、たまたまその時に出会ったいい形の木を使うっていうのもご縁ですもんね。……でもふと思ったんですけど、普通の庭師さんってそこまでしてくれるんですか? 余白を作ったり、雑木を選んで上手に組み合わせたり。

中島

いや、やらないと思いますね。たいていは高さと樹種を指定して、材料屋さんから持ってきてもらったものを植えるというのが多いと思います。

安田

そうなんですか! ということは、庭師さん自身が形やデザインを考えてくれるわけじゃないと。1本1本の木の形や、その隙間までこだわった庭づくりをしてくれるのは、direct nagomiさんならではなんですね。

中島

それをしないと、なかなか理想的な自然なお庭は作れないので。かといって我々が勝手に作るわけではないので、「こういう色の花が欲しい」とか「こういうふうに紅葉させたい」とか、ご要望はどんどん言っていただきたいです。

安田

ふむふむ。そうやってコミュニケーションする過程で、依頼主側の間違った認識も正してもらえそうですしね。「その木は想像より大きくなるのでやめた方がいいですよ」とか、教えてもらえるというか。

中島

ああ、仰るとおりで。例えば、最近はどんぐりがなるようなコナラという木が流行っているんですけど、お庭に植えるのはあまりおすすめしません。成長も早いですし、育ちすぎるとそれだけ大がかりな手入れが必要になってしまうので。

安田

なるほどなるほど。植えてほしいと言われたから植えるのではなく、プロならではの視点も踏まえて提案してくれるわけですね。

中島

ええ、もちろんです。メンテナンスについてもご説明させていただくので、「それはちょっと大変だから他の木にしてほしい」と方向転換されるお客様も多いですね。

安田

そうでしょうね。そのお客さんの気持ち、よくわかります。私も「木の選定は中島さんにお任せしよう」という気持ちになってきましたから(笑)。

中島

そうですか(笑)。たしか安田さんはお庭を作るなら桜やイチョウなどを植えたいというご要望があった気がしますけど……

安田

そうだったんですけどね。中島さんと話せば話すほど、自分で決めるよりも中島さんに委ねたくなってきました(笑)。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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