第23回 複数業態を展開する企業の、効率的な集客方法とは?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第23回 複数業態を展開する企業の、効率的な集客方法とは?

安田

株式会社モンテドールでは現在ケーキ屋さんパン屋さんの2店舗経営をされており、かつてはカフェも経営されていました。それぞれ業態が異なるお店を展開されていたわけですが、業態に合わせて集客方法も変えていたんでしょうか?


スギタ

うーん…集客方法を変えていたというより、「この店からあの店へお客様を呼び込む」ということをやろうとしていました。

安田

ほぅ。それはつまり、ケーキ屋さんのお客さんに、パン屋さんも利用してもらおうとしていたということですか?


スギタ

そうですそうです。まず最初のケーキ屋さんでは、ポイントカードの登録情報からだいたい2万人くらいのお客様にご利用いただいていたことがわかっていたんですね。

安田

へぇ、2万人も!


スギタ

はい。その中で定期的にご利用してくださるお客様は、当時の売上から考えると1万人くらいだと予想できました。

安田

それはどうやってわかるんですか?


スギタ

この業界で昔から言われている話があって。どこまで根拠があるかはわからないんですが(笑)、年間1億円の売上があるお店は1万人のお客様が利用しているらしい、と。

安田

つまりお客さん1人あたり、年間1万円くらいは使っているだろうというわけですね。


スギタ

そうですそうです。当時、年商1億円くらいだったので、その理論でいけば年間1万人くらいのお客様が利用してくださっているんだろうと考えたわけです。

安田

じゃあその1万人が、新しくオープンしたパン屋さんの顧客になってくれるだろう、と踏んだわけですね。


スギタ

仰るとおりです。「これはもう新規に集客するより、はるかに集客コストも安く済みそうだぞ」と思いましたね(笑)。

安田

ケーキ屋さんに来たお客さんに「パン屋さんができました。ぜひ行ってください〜」って一声かければいいわけですもんね。


スギタ

そうなんです。パン屋のオープンから1年後にはカフェもオープンさせていたので、各店舗でそれぞれのお店の紹介をしていったわけです。「3店舗利用していただければ、1人あたりの購買単価がアップして、売上と利益が最大化できる」…これが僕の目論見でした。

安田

なるほどなるほど。でも結果はそううまくはいかなかった、と(笑)。


スギタ

ええ(笑)。数年にわたって3店舗で客層の分析をしていったところ、ケーキ屋のお客さんの全員がパン屋に行くわけではないということがわかりました。まあ至極当たり前のことなんですけどね(笑)。

安田

ケーキはハーベストタイムのものが好きだけど、パンはもともと通っていた別のお店のものがお気に入りってことも当然あり得ますよね。


スギタ

そうなんですよ。僕らとしては「業態の違うお店が3つもあれば、買い回っていただけるお客様が増えるはず」という仮説…いや、期待を持っていたんですけど(笑)。皆さん、好みによってお店を使い分けられているということを痛感しました。

安田

なるほどなぁ。ちなみに3店舗全部を使ってくれているお客さんは何%くらいいたんですか?


スギタ

全体の20%くらいですかね。

安田

ほぅ、それでもなかなか多いと思いますが、スギタさんが思ったほどの集客効果はなかったんですね。それで、そこからまた別の集客方法を考えるようになったわけですか?


スギタ

そうですね。次は「3店舗展開しているということの認知度をアップさせる」ことにシフトしました。各店舗にそれぞれのお店のポスターを掲示したり、「3店舗もやっているんですよ」とお声がけしたりして。

安田

確かにそちらの方が合理的ですけど…お客さんの反応はどうでした?


スギタ

あんまりよくなかったですね〜(笑)。お客様にとっては同じオーナーがやっている別のお店の情報なんて、特に求めてないんでしょう(笑)。

安田

むしろ同じオーナーだってわからない方がいいのかもしれない。複数の業態をやっていると「なんでも屋さん」に見えてしまうというか…。


スギタ

そうなんですよね。専門店としての魅力が低下してしまうリスクもありますから。

安田

ふむふむ。じゃあ今はどうやって集客しているんですか?


スギタ

基本的にはInstagramで集客しています。昔は1つのアカウントでパン屋もケーキ屋も両方PRしていましたが、今はアカウントも別々にして運用していますね。

安田

『ハーベストタイム』『スギタベーカリー』も、とても素敵なInstagramですよね。


スギタ

ありがとうございます。写真の撮り方にも工夫を凝らしているんですよ。例えばケーキだったら「こういう角度からこういうカメラモードで撮るといい」みたいに。スタッフが専門家から指導を受けているんです。

安田

なるほど! だからあんなに魅力的なケーキ写真ばかりなんですね。パン屋さんの方は、どんなことを意識して写真を撮るんですか?


スギタ

パンはケーキと違って、1つの商品に寄って撮るというより、カゴいっぱいに盛られている写真とか、売り場全体の雰囲気がわかるような写真を撮るように意識していますね。

安田

なるほどなぁ。いろいろと工夫をしてきた結果、今のような集客方法にたどり着いたということがよくわかりました!


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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