地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第33回 ケーキ屋さんが1年で1番忙しい時期にホノルルマラソンを走る理由

スギタさん、ホノルルマラソンに出場されるんですって?

そうですそうです。いろいろ書いていた中で、「ホノルルマラソンとボルドーマラソンに出る」という2つだけをハッキリ覚えていて。開催時期なんかも加味すると、今から準備して参加できるのはホノルルマラソンだな、と思い立ったというわけです。

いやぁ〜、逆に言えば「今しかないな」と思ったというのが正直なところで。というのも、今年8月に『ninon patisserie(ニノン パティスリー)』というお店をオープンさせたじゃないですか。

スギタさんのお店で長く働いていた方の「独立支援」という形で出したお店ですよね?

ええ。もともと『ハーベストタイム』の「製造責任者」を13年くらい務めてくれていたスタッフだったんですが、彼女が抜けてからハーベストタイムの製造責任者は「不在」のままなんですよ。

そうそう。あえて決めずにいたんですよ。そうしたらスタッフ同士が「これ、どうやったらいいかな」とか「そろそろこれも考え始めないといけないんじゃない?」とか、お互いに相談しながら仕事を進めるようになったんですよね。

クリスマス時期が近づいてくると製造責任者が先頭に立って「誰がこれをやる」とか「いついつまでにあれを用意する」とかの計画を立てるんですね。だけどそのポジションが不在なら、当然「全体の責任者」である僕がやらなくてはいけないかなと思ってはいたんです。でも主体的に動いてくれている彼らを見ていたら「これはもしかしたら…」って。

そうそう!(笑) それで「ちょっとやってみたいな〜」と思っちゃって。とはいえ根拠なくこんなことをしているわけではないんです。実は『スギタベーカリー』では、すでにこの方法でうまく回っていまして。

はい(笑)。6年ほど前にそれまで長く店長を務めていたスタッフが抜けまして。その時にあえて次の店長を立てることはしなかったんですよ。というのも、店長っていろんな責任を負うじゃないですか。それこそ火元責任、清掃責任、顧客対応などなど。

そうなんですよ。だったらスタッフ全員で店長業務を「分担しながら」やってみるのはどうだろう、と。そうしたらそれが思いの外うまくいって。なにかトラブルがあっても、各スタッフが率先して対応してくれるようになったんです。

やっぱり「店長」や「製造責任者」を置くと、それ以外の人が「これ以上は自分の仕事じゃないよね」ってラインを引いてしまいがちなんですよね。でもそういう「上の立場」の存在がいなければ、「自分たちでなんとかするしかない」って考えるようになる。

ええ。僕が見ている限りはすごくいい感じですね。そういうことも含め、総合的に判断したら「今年なら12月に僕が抜けても大丈夫かもしれない」と思えたので、ホノルルマラソンに出場することを決めたわけです。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。