定着ではなく卒業

会社と社員の関係は変化した。経営者はまずこの事実を認めなくてはならない。20代社員のほとんどは10年以内の転職を考えているし、管理職への昇進を望んではいない。こういう話をすると「ウチは違う」と頑なに反論する経営者がいる。ビジョンに共感した人材が集まっているし出世する気も満々なのだと。

別に社員が嘘をついているとは思わない。今いる社員はきっとビジョンに共感していて出世意欲も高いのだろう。だがその社員もいずれ歳を取っていく。次に入ってくる若者は同じ価値観で働いてくれるだろうか。「価値観が合わない人は採用しない」などと言えるのはずば抜けた採用力のある会社だけだ。

若者の労働観は変化してきた。これはもう動かしようのない事実である。変化を嘆く経営者は多いのだが、それは経営者の偏った視点である。ひとつの会社に人生を委ねるのではなく汎用的なスキルを磨き続ける。微々たる報酬しか増えない管理職よりも生活の安定を優先する。当然のことではないだろうか。

これはグローバルでは当たり前の価値観である。「我々は日本人だ、日本人には日本人の価値観がある」と声高に叫んでみても、現場の労働観は世界標準にどんどん近づいている。滅私奉公はもとより、仕事第一の生活を強いることなど不可能。ここを理解できない会社は人不足で事業が立ち行かなくなるだろう。

環境が変化したのなら自ら環境に適応していく他ない。人不足を解消したいなら、優秀な人材に選ばれたいのなら、根本的な発想を変えること。重要なのは定着率の向上ではない。辞めた人材の活躍。これこそが人不足解消のカギなのである。辞めた人間を活躍させてどうする?などと考える経営者はもう古い。

あの会社の卒業生ならぜひ採用したい。あの会社で働けば転職市場での価値が高まる。キャリアの大きなアドバンテージになる。リクルート社は何十年も前から見事にこのポジションを獲得している。さすがは採用のプロ集団である。このポジションがいかに採用力アップに繋がるか想像してみてほしい。

やるべきことは明白だ。卒業を前提として人を採用すること。社内で必要なスキルだけではなく、社外で必要とされるスキルを身に付けさせること。一人ひとりに向き合って才能を開花させ、マーケットでの価値を高め、喜んで次に送り出す。人も知識も出すことをしないと入ってこないのである。
 

 

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