第39回 イチゴショートケーキの奥深さ

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第39回 イチゴショートケーキの奥深さ

安田

以前の対談で「イチゴの商品は鉄板だ」って仰っていましたよね。なかでもイチゴのショートケーキは一番の売れ筋商品だって。


スギタ

そうですね。イチゴが乗っていれば絶対売れる、と言えてしまうくらいで(笑)。

安田

かく言う私もイチゴのショートケーキが一番好きなんですけど、ただ家族も含めた周りの人で、イチゴのショートケーキを選ぶ人ってあんまり見たことがないんですよ。だからダントツに売れているっていうのがピンとこなくて。


スギタ

ウチに関して言えば、明確にダントツです(笑)。年間で考えると、二番手のケーキの倍くらいの個数は売れていると思います。

安田

へぇ〜、そんなに。じゃあ逆に言えば、「イチゴショートを売っていないケーキ屋さん」なんて、まずあり得ない感じですか?


スギタ

基本的にはどこも扱っているんじゃないかなぁ。国産イチゴが安定して仕入れられるのは冬から春先頃までなので、「冬のシーズンしか出してない」っていうお店はあるかもしれませんけど。

安田

ははぁ、なるほど。夏ってあまりイチゴは出回らないですもんね。


スギタ

夏イチゴというのもあるんですけどね。北海道産とか、広島で言えば県北で作られているイチゴなんですけど。ただどうしても入荷が不安定ですし、なによりちょっと酸味が強くて、甘さが弱いんです。だからその時期だけはイチゴではなく桃やメロンのショートケーキを出す、っていうお店はあると思います。

安田

なるほど、イチゴの代わりに、季節の果物で作るわけですか。


スギタ

そうそう。とはいえ「ショートケーキといえばイチゴ」というイメージが強いと思いますし、お子さんも絶対好きじゃないですか。だからウチではなんとかイチゴを確保して、通年お出ししています。

安田

ふむふむ。ちなみにスギタさんのお店で使うイチゴの銘柄って、決まっているんですか?


スギタ

いや、決めてないですね。その時々で仕入れられるイチゴも全く違いますので。

安田

どんなイチゴを使うことが多いんですか? やっぱり『とちおとめ』ですか?


スギタ

西日本って『とちおとめ』は入ってこないんですよ。広島で仕入れられるものとしては、『あまおう』『さがとよのか』『さがほのか』『いちごさん』あたりですかね。

安田

へぇ〜、そうなんですね。ちなみにショートケーキって、上に乗っているものだけじゃなくて、中にもイチゴがサンドされていますよね。あそこも同じイチゴを使っているんですか?


スギタ

ウチは変えています。上の飾りに使うイチゴはなるべく甘みがあるものにして、中に使うものは酸味が強いもの。というのも、個人的にイチゴのショートケーキの美味しさって「甘酸っぱさ」のバランスだと思っていまして。

安田

わかります。イチゴもスポンジケーキもクリームも全部甘いだけだと、なんとなく物足りなさを感じますね。


スギタ

ですよね。そこに酸味がしっかりあることで、美味しさを感じられると思っていて。だからあえて酸味のあるイチゴをサンドしています。

安田

ははぁ…そこまで計算されているわけですね。それはどこのお店でもやっていることなんでしょうか?


スギタ

いやぁ〜どうなんでしょう。他店がどうやられているのかはちょっとわからないですが、少なくとも、僕が修行していた『ダニエル』では飾り用とサンド用は変えていましたね。

安田

なるほどなるほど。いろんなこだわりが詰まっているんですね。


スギタ

「ケーキ」と言われたら「イチゴの乗ったショートケーキ」を思い浮かべる人が多いと思うんです。だからこそ、僕らは皆さんがイメージするイチゴショートの「美味しさの期待」を超えていきたくて。

安田

へぇ〜、素敵ですね。とはいえイチゴショートってすごくシンプルじゃないですか。スポンジと生クリームとイチゴだけ。それなのにそんなに差が出るかなと思いきや、やっぱり一口食べれば美味しいものとそうじゃないものの差は歴然で(笑)。どこで差が出るんでしょうね?


スギタ

まず使っているのが「生クリームかどうか」っていう違いはあるかもしれないですね。

安田

…え? 生クリームじゃないこともあるんですか?


スギタ

ありますあります。生クリームって生乳から作りますけど、そうではなくてフレッシュクリーム…要は、植物性油脂を使って作ったものを使っているところもありますね。あとはコンパウンドクリームっていう乳脂と植物性脂肪をブレンドしたクリームを使っているお店も多いですし。

安田

ふ〜む、そうなんですね。なんかそれを聞くとがっかりですね…。


スギタ

あとは、使用するバターも、マーガリンと混合したものを使っていたり。

安田

なるほど…。スポンジはどうでしょう? ここも大きな差が出ますか?


スギタ

むしろお店の個性が一番出るのがスポンジだと思います。卵をどの程度泡立てるかとか、粉を入れて混ぜる時にどの程度泡を消すかとか、その加減によって食感が全然変わってくるんで。

安田

確かに、ふわふわだったり、ちょっと生地に食べごたえがあったり、いろいろなスポンジがありますね。ところでスギタさんにとって「一番美味しいショートケーキ」ってどのお店のものなのか、教えていただけますか?


スギタ

うーん、ちょっとズルいかもしれませんが、父が作ったショートケーキが一番好きでしたね。生地とクリームのバランスもいいし、口溶けがよくて、すごく美味しいなぁと思いながら食べていた記憶があります。

安田

いいですねぇ〜。やっぱりケーキっていろいろと奥深いんですね。普段、ショートケーキについてじっくりお聞きできる機会ってなかなかないので、今日の対談はとっても興味深かったです!


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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