第184回「社長と社員は男女の関係!」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第183回「世代交代はいつ?」

 第184回「社長と社員は男女の関係!」 


安田

見てる窓がちがう?

石塚

経営者・社長の窓から見える風景と、社員・従業員の窓から見える風景は、まったく違うってことです。

安田

だから伝わらないってことですか。

石塚

社員のことを思って、社長がいろいろ考えても伝わらないことが多い。

安田

「社員を守らなくちゃ」「ちゃんと育てたい」っていう優しい社長さん中小企業には多いですよね。

石塚

多いですよ。だけど社員さんに話聞くとまったくそれが伝わってない。

安田

石塚さんは「金銭的な報酬の限界」みたいなことを書かれてましたね。

石塚

だって経営者がいちばんリスクに思うことは「資金ショート」じゃないですか。

安田

いちばんの恐怖です。

石塚

従業員がいちばん恐れるのは自分がその会社で働けなくなること。そもそもがまったく違うんですよ。

安田

社員には資金ショートなんて関係ないですから。

石塚

ポジションを奪われるのが嫌。「あなたはクビです」って言われるのが嫌。まったくゴールも着地点もちがう。それを認めたほうがいい。

安田

社員が活躍してくれれば居場所も失わないし資金も回るし。利害は一致してる気がするんですけど。

石塚

説明のプロセスを間違えてるんですよ。経営者はすぐ結論が見えちゃうから。「結論から考えていこう。わかるよな」って話し方をする。

安田

なるほど。

石塚

けど従業員にはそれが分からない。プロセスを踏んで説明しないと理解できない。

安田

よくある話ですね。

石塚

「この人は言うことがコロコロ変わるし、どこまで付き合っていいかわからない」と。でも経営者は資金ショートを恐れるから、常に変化対応しなきゃいけない。

安田

朝令暮改は当たり前だと。

石塚

当然いろんなスピードで物事を考える。だからぜんぜん合わないんですよ。

安田

「金銭的な報酬の限界」というのはどういう意味ですか。

石塚

金銭的な報酬で社員が動くのは「一瞬だけ」ってことです。開始動機だけ引っ張っても、継続動機を効かせない限りはつづかない。

安田

継続動機ですか。

石塚

当たり前のことだと思うんですけど。お金が高いっていうのは開始動機、つまり物事を始めるきっかけにはなるんですよ。けど継続動機にはなってない。

安田

高い報酬を維持してくれれば継続動機になりませんか?フリーランスだったら喜んで頑張ると思うんですけど。

石塚

フリーランスは自分自身が個人事業主だから。雇用契約で仕事している人とは根本的に当事者意識がぜんぜん違います。

安田

違いますか。

石塚

フリーランスは「自分ごと100%」で考えるから。スピードも速いし、無駄なことしないし、技術レベルの向上にも貪欲だし。つまり「小さな社長」みたいなもの。

安田

なるほど。見てる景色が経営者に近いわけですね。

石塚

かなり近いです。機能においてはほぼ経営者と同じ構造をしてる。社員はそこが違う。だからお金が継続動機にならない。

安田

どうしたらいいんですか。

石塚

3つの要素が必要です。「工夫感」「役立ち感」そして「自己成長感」。この3つを仕事および職場で回転していかないと継続しない。

安田

「工夫」っていうのは、社員さんが満足するための工夫ですか?

石塚

社員自身の工夫感です。仕事において工夫感がないと「やらされ仕事をしてる」って感じるわけです。

安田

なるほど。「私は工夫してる」と感じるような働かせ方をしないといけない。

石塚

そうです。

安田

それと「役に立ってる感」と・・・

石塚

成長感です。

安田

なるほど。「自分で工夫していて」「役に立っていて」「成長してる」と。でも「工夫するのが苦手」「言われたことだけやりたい」って人もいますよ。

石塚

いますね。

安田

そういう人はどうしたらいいんですか。

石塚

そういう人は、その人の範囲でこの3つを効かせればいいんです。

安田

その人なりの工夫ってことですね。

石塚

そうです。

安田

言われたとおりの作業だったとしても、自分で工夫してる感は必要だと。

石塚

そういうことです。ぜんぶ「感」がつくってことは、数値化できないってこと。逆に言ったら「数値化しなくていい」ってことなんですよ。

安田

深いですね〜。

石塚

経営者はここに気づいたほうがいい。総額人件費を維持もしくは少しずつ下げながら、従業員満足度を上げていく。これが理論的に可能だと僕は思っていて。

安田

可能ですか?そんなことが。

石塚

可能です。たとえば去年の下半期はオフィス移転が多かったじゃないですか。

安田

はい。リモートワークで。

石塚

移転の時って、見えないように反対したり嫌がらせしたりする社員が多いんです。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。「社長、ちょっとすいません。こうこうこういう事情で、いついつまではここを動けません」とか。でも、それってよくよく見ると社員の言い訳で。

安田

なぜそんなことするんですか。

石塚

社長は「オフィスを移転して固定費を下げたほうが、会社の資金ショートリスクが減る」って考えるからオフィスを移転する。

安田

当然ですよね。

石塚

しかし従業員は「自分のポジションが失われる」って感じるわけですよ。

安田

なんでそうなるんでしょう。

石塚

いままで100あった面積が70になると「ああ、自分はこの会社に居られなくなるかも」と感じる。だから絶対に現状維持したい。オフィス移転はできれば反対したい。

安田

社員をクビにしなくていいように、コストを抑えてるんじゃないですか。

石塚

だから、それの説明が足りないんですよ。家族にたとえると、お父さんにいきなり「明日から旅行いくぞ」って言われるようなもんで。「えっ、準備もしてないし」って。

安田

すごい例えですね(笑)

石塚

「家族のことを考えているのに、なんでおまえら理解できない?」「いや、気持ちはうれしいんだけど、前もって言って」「俺も忙しいんだ。いろいろ大変ななかで精一杯考えて……」って、お互い永遠にすれ違ってしまう。

安田

なるほど。

石塚

そういう会社がめちゃくちゃ多いんです。

安田

社員のことを考えるのはいいけど、「それをちゃんと伝えなきゃだめ」ってことですね。

石塚

あざとく言えば、それってお金がいらないじゃないですか。

安田

その代わりにコミュニケーション力が必要になってきますね。

石塚

そのとおりです。経営者はすぐ「結論」とか「課題解決」の話になる。相談に行くと「こうやればいいだろ?」ってのが社長の答え。しかし、従業員はまったくそんなものを求めていない。

安田

何を求めてるんですか。

石塚

従業員はただひとつ「そうか、おまえも大変だな。一緒に考えるぞ。一緒にやろう」って言ってほしいだけ。

安田

男女の関係によく似てますね(笑)

石塚

似てる似てる(笑)

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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