第87回 高くても選ばれる庭の作り方

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第87回 高くても選ばれる庭の作り方

安田

最近はAIの影響でホワイトカラーの仕事が減る一方で、現場の人手不足がどんどん深刻になってますよね。人件費が上がる一方で、外食チェーンではロボット導入も本格化している。


中島

そうですね。現場のコストが上がる中で、僕たちのような職人仕事も、ある程度は価格に反映せざるを得なくなってきたと感じます。

安田

でもそれって、ある意味で「技術を適正価格で売るチャンス」だとも思うんです。コストが上がったから仕方なく値段も上げる、ではなくて、「この技術はそもそもこれだけの価値があるんだ」という価格設定をしてもいいように思うんですけど。


中島

う〜ん、なるほど。まぁ実際値上げしていかないと厳しいという現実はあるんですが、とはいえ岐阜県では新築の数が2年前の半分という状況で。

安田

えっ、半分!? それは相当ですね。何が原因なんですか?


中島

まぁ世界的なこの不況感による影響だと思います。愛知はトヨタのおかげでまだ景気が安定してるらしいんですが、岐阜は景気に大きく左右されやすくて。三重も7割くらいになってるそうです。

安田

ふ〜む、つまり地域間でかなり差が出てきていると。若い世代が減ってきている影響もありそうですよね。


中島

それも大きいでしょうね。銀行の相談件数はそんなに減っていないけど、ローン審査に通らない人が多くなっている、って話も聞きます。

安田

ああ、建てたいのに建てられない人が増えてるということですね。そうなると、尚更「庭にまでお金が回らないよ」ってケースが増えちゃいそうです。


中島

そうなんです。建築費で予算を使い切って、外構は後回し、あるいは簡素化されがちで。なかなか頭の痛い状況です。

安田

でもdirectnagomiさんの規模であれば、「庭にこだわりたい層」だけに絞っても十分やっていけると思うんですよ。むしろ大事なのは、安さ競争に巻き込まれないことじゃないかと。


中島

それはそうですね。そこに引きずられてしまうと、自分たちの仕事の質も落ちかねないですから。

安田

ビジネスモデルを変えて、本気で時間とお金をかける人だけを相手にすればいいと思うんです。私も実際そうしていて、100人いたらそのうち3人に刺さるくらいでいいと思っています。むしろそれくらいしか対応できないので。


中島

確かに。僕も年に何百件も庭を作れるわけじゃないですし(笑)。

安田

そうですよ。だったら件数を増やすより、価値を高めて価格を上げた方がいいと思うんです。ターゲットを絞った方が、お客さんも問い合わせしやすくなるでしょうし。


中島

なるほど。「なんでもできますよ」って言われるより、専門性が見えた方が頼みやすいですもんね。

安田

そうそう。例えば「調整込みで3年かけて完成する庭」ってパッケージにすれば、2倍の価格でも納得してもらえると思いますよ。

中島

年1回、あるいは半年に1回訪問して整えていくような商品設計ですね。

安田

ええ。大事なのは「なぜ高いのか」を伝えることだと思うんです。そこがちゃんと伝われば、納得して選んでもらえる。


中島

なるほど…。その「理由」をもっと伝えていかないといけませんね。今までは裏方の部分は見せないようにしてきましたけど、むしろ見せた方がいいのかもしれない。

安田

そう思いますよ。今は「見せる時代」ですから。例えば手作りハンバーグとチェーン店の違いも、裏側の工程を伝えることで、価格に説得力が出るじゃないですか。

中島

確かにそうですね。…でも今までとだいぶスタンスが違うので、自分にできるかなと思ってしまいます(笑)。

安田

まったく新しいサービスとして出すことが大事なんだと思いますよ。「これまでの庭とは違う、新しいグレードの庭が登場しました」という。既存の商品とは区別して、新しい価格で別商品として展開する。これが自然な値上げの方法です。

中島

ははぁ、なるほど。違うコンセプトで見せていくってことですね。

安田

そうそう。例えば「3年で仕上がる庭」とか「年1回のメンテナンス付きの庭」とか。名前とパッケージを変えるだけで、全然印象が変わると思いますよ。

中島

夏場は特に手入れが必要なので、3ヶ月に1回の定期訪問プランなんかも考えられるかもしれませんね。年間管理みたいな形で。

安田

それでいうと、「管理」という言葉はちょっともったいないですね。どうしてもエアコン掃除のような定期点検っぽいイメージになりやすいので。それよりも「手入れ」とか「育てるお手伝い」の方が価値が伝わる気がします。

中島

なるほど。「この庭は3年かけて完成するんです」という世界観を伝えると。仕上がりだけじゃなくて、育っていく過程も一緒に楽しんでもらえそうです。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

Facebook

高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから