第345回「新卒採用は優良企業だけの特権?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第344回「現場に近いほど儲かる時代に」

 第345回「新卒採用は優良企業だけの特権?」 


安田

富士通が新卒一括採用を廃止したそうで。

石塚

はい。「2026年4月1日入社の採用をスタートします」っていうのが一括採用なんですけど。もう時代に合ってないという判断でしょう。

安田

富士通さんは新卒採用をやらないってことですか?

石塚

これまでのような一括採用はやらないってことですね。要するに通年採用に変えますよってこと。新卒にどこまでこだわるかは分かりませんけど。

安田

なるほど。確かにこういう会社が私の周りでも増えてきています。

石塚

既存のやり方だと求める人材が採れなくなってるから。

安田

大量の企業情報の中から条件だけ見て選ぶ感じですもんね。でも大企業には有利だと思いますけど。

石塚

大企業といえども計画通りには採用できてないって事でしょう。

安田

富士通みたいな会社でも人数未達みたいなことがあるんですか。

石塚

内定辞退が多すぎて。早くやればやるほどこぼれるし。新卒一括採用ってことは締め切りができるわけじゃないですか。

安田

そうなりますよね。

石塚

そうすると全体の管理はしやすいんだけど、必要な数と質を確保できない。「だったら締め切りはなくして、もう通年で行こう」という感じ。

安田

通年ということは中途と新卒も分けずに一緒にやっちゃうってことですか?

石塚

ほぼそれに近いと思います。要するに人事や採用の負荷を減らしたいんですよ。

安田

人事の手間を考えると一括採用の方が楽な気がするんですけど。

石塚

それで確保できて終了すればもちろん楽です。だけど学生はその通りに動いてくれないから。

安田

動いてくれませんか。

石塚

時期もバラバラだし。平気で内定辞退してくるし。昔だったら富士通から内定を出せばある程度は確保出来たけど。今はもう歩留まりが読めなくなってきてる。

安田

石塚さんの予想では新卒一括採用は無くなっていく?

石塚

なくなりはしないと思う。ただこれまでのようなやり方では計画通りに採り切れないってことですよ。

安田

大手でさえそうなんですね。いまだに同じことをやっている中小企業は多いですけど。説明会→グループ面談→面接みたいな流れ。

石塚

僕は昔から言ってますけど中小企業が新卒採用するのはやめた方がいいです。

安田

新卒採用自体をやめた方がいいと。

石塚

はい。もう全部、第2新卒以降の経験者採用にした方がいい。

安田

それはなぜ?

石塚

新卒採用が出来るって、もう優良企業の特権なんですよ。とくにこの2〜3年を見ていてそう思います。

安田

普通の中小企業にはもう無理だと。

石塚

「新卒は染めやすい」「育てやすい」みたいな感覚でやっても無理じゃないですか。

安田

優良企業とみなされるポイントってどこでなんですか? 

石塚

まず給料が高いこと。大手並みと言いたいですが最低でも25万以上じゃないと話にならない。

安田

25万でギリギリって感じですよね。

石塚

はい。ギリギリです。そして働きがいがあること。

安田

働きがいとは?

石塚

仕事の面白さ。裁量をくれる。その中での自己成長。

安田

なるほど。

石塚

そして働きやすさ。社風、風通し、物が言いやすい、女性活用もしっかりされている。

安田

給料が高くて、やりがいがあって、成長できて、働きやすい職場。

石塚

大体その辺りが基準ですね。社会に必要とされ、仕事も面白くて、なおかつ18時に帰れて、休みもしっかり取れる。

安田

経営者は大変ですね。

石塚

「バカ言うな」って話ですよ。それで初任給30万ですから。

安田

こんな条件を兼ね備えた中小企業なんてあるんですか?

石塚

たまにありますよ。規模が小さいだけでめちゃくちゃ優良な会社。

安田

新卒採用はそういう特別な会社の特権だと。

石塚

特権ですね。だって普通の会社が新卒採用しても元が取れないですよ。30万払ってゼロから育ててもすぐ辞めちゃうから。

安田

普通の中小企業はどこを狙えばいいんですか?

石塚

人が採らないところ。言い方は悪いけど、いわゆる「訳あり品」ってやつですね。

安田

なるほど。「ちょっと形が悪いけど美味しい野菜」みたいな人材。

石塚

そう。あとはもっと女性活用に力を入れること。

安田

いまだに男性ばかり採りたがる経営者が多いですよね。

石塚

面倒くさいっていうのが本音じゃないですか。ただそこは社長が上手くならなきゃダメ。面倒くさいとか言ってる場合じゃない。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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