第72回 「長く生きる」よりも大切なこと

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第72回 「長く生きる」よりも大切なこと

藤原

安田さんと一度、「死生観」についてじっくり話してみたかったんです。以前「60歳を過ぎたら病名はいらない」と仰っていたじゃないですか。あの考え方に、私も共感しているところがあって。

安田

なるほど。前回の話にも通じますが、私たちは目の前にある現実を、どこかで見ないようにしている気がするんですよね。「死」というテーマもその一つで。


藤原

確かに。死って、どこか特別なものとして避けられがちですけど、誰にでも確実に訪れることですもんね。

安田

そうそう。他の動物と違って、人間は「自分がいつか死ぬ」と理解して生きている唯一の存在なんですよね。それなのに、多くの人がその事実から目を背けたまま日常を送っている。変な話ですよ。


藤原

わかります。病気をして余命宣告されたときも、天地がひっくり返ったような衝撃を受ける人が多いじゃないですか。思っていたより短くて驚くってことなんでしょうが、例えば50歳の人なら「余命50年以内」だろうことは最初からわかっていたわけで。

安田

余命50年(笑)。でも確かにそうですよね。人間ドックに毎年行って安心してる人がいるけど、それって「あと30年の命」って言われてるようなものなんですよね。別に寿命が伸びているわけじゃない。


藤原

そうそう。それに、むしろ死を真剣に考えたほうが、現在の生活は充実するんじゃないかとも思っているんです。「どう死ぬか」というのは当然「どう生きるか」と地続きなわけで。

安田

仰るとおりですよね。20代でそれを意識するのは難しいかもしれないけど、50歳を超えたら「死を前提にどう生きるか」というスタンスで考えるべきです。でもそういう話をすると「またまた」なんて茶化されることが多くて(笑)。


藤原

「そんなこと言ってる人が長生きするんですよ」なんてフォローされたりするんですよね(笑)。

安田

そうそう(笑)。そういう話をしてるんじゃないのに、といつも思うんです。


藤原

死生観には正解がないからこそ、自分なりの答えを考え続けることが大事で。先ほど余命宣告の話をしましたけど、そこでパニックになってしまう人も多い一方で、覚悟を決めてすごく立派な生き方をされる方もいるじゃないですか。その違いってなんなんでしょうね。

安田

やっぱり「死をどう受け止めるか」という心の準備ができているかどうかじゃないでしょうかね。例えば日本では癌で亡くなる人が一番多いと言われてますけど、高齢者ならそれはもう老衰と呼んでいいんじゃないかと思うんですよ。


藤原

確かに。20代で癌になるのと、60代で癌になるのとでは、全く意味合いが違いますからね。

安田

そうなんですよ。そもそも病名って、診断した医者がつけるものじゃないですか。病名がつかずに老衰で亡くなるケースも、もっとあっていいと思う。だからこの際「何歳以降は全部老衰ということにする」と自分で決めておいてもいいくらいじゃないかと。


藤原

ははぁ、なるほど(笑)。でも実際、どれだけ健康に気をつけていたって、死のタイミングは自分で決められませんもんね。健康マニアはむしろ早死にが多いみたいな話も聞きますし。

安田

そうそう。逆に普段はものすごい不摂生をしているのに、健康診断前だけ真面目な生活をして、「数値が正常だったから大丈夫だ」って言っている人もいるじゃないですか(笑)。ああいうのもどうかと思います。


藤原

笑。その検査、本当に意味あるの?っていうね。言い方を変えれば、「人間ドックビジネス」に踊らされているだけとも見えてしまう。

安田

確かに確かに。でも、どうしてこんなことになっているんでしょうね。死生観って、日本人がもともと大切にしてきたものだったと思うんですけど。


藤原

延命措置がこれだけ浸透してしまったこともあるのかもしれません。延命措置って、一度始まってしまうと法律的に途中でやめることもできないんですよね。本人の意思とは無関係に、命だけが続いてしまう。

安田

うーむ、それって本当に恐ろしいことですね。言わば「死ぬ権利」を奪ってしまうわけですから。本来なら自分自身の最期についてもっと考えたり選択したりできるはずなのに、それすら許されない。せめて「死について普通に話せる空気」は作っていかないといけないと思いますよ。


藤原

同感です。ただそれでいうと、先ほどの話にもあったように、もともとはそういう文化の国のはずなんですけどね。武士道における切腹とか、あるいは戦時中の特攻とか、日本人は昔から死について独自の感覚を持っていたはずで。

安田

そうですよね。死をもう少し肯定的に捉えてもいい気がするんです。お葬式ではとにかく全員が悲しそうな顔をしてますけど、実際は悲しみ以外の感情もいろいろあるわけじゃないですか。


藤原

ああ、わかります。もう少し「どう生きたか」にフォーカスしてもいいですよね。

安田

そうそう。「立派に生きた人だったな」とか「たくさんお世話になったな」とか、ポジティブな感情だってあるはずで。


藤原

まさにそうですね。たとえ50歳で亡くなったとしても、「生ききった」と感じられる人生なら、それでいいと思います。生きた年数よりも「どう生きたか」ですよね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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