第88回 人間の「欲の衰退」がもたらす未来のカタチ

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第88回 人間の「欲の衰退」がもたらす未来のカタチ

藤原

今日はぜひ安田さんと話してみたいテーマがあるんです。以前、安田さんが仰っていた「国家や国境があるから争いが生まれる」というお話にすごく触発されまして。

安田

ああ、その話ですね。理想を言えば、国境なんてない方が平和ですよね。


藤原

ええ。ただ一方で、人間という生き物の本質を考えると、そう簡単ではないな、とも思いまして。自分のテリトリーを守ろうとするのは、ある意味自然な姿とも言えるわけで。

安田

まあ現実問題として、私も自分の家には鍵をかけますし、このご時世で隣人を信じて家を開けっ放しにして現金を置いておいたら、人生は破綻するでしょうね。


藤原

そうなんですよね。歴史を振り返れば、土地を「所有」するという概念を持たなかったネイティブアメリカンアボリジナルのような人々は、所有欲に駆られた人々によって蹂躙されてしまったわけですし。

安田

確かにそのまま所有という概念のない時代が続いていたら、今のように国防にお金をかけることもなかったかもしれません。でもその代わりに、ここまで科学は発達していないだろうし、あまり刺激のない世界だったかもしれない。


藤原

確かに。そう考えると、一つの事実として受け止めるしかないんでしょうね。

安田

ええ。もうしょうがないというか、巻き戻せない歴史なんですよね。その結果、良かれ悪しかれ国境警備が必要な世界になっている。今もし日本からアメリカの軍隊がいなくなって、完全に国境を放棄したら、大変なことになりますから。


藤原

それはそうですよね。中国やロシア、北朝鮮なんかが押し寄せてくるでしょう。

安田

地図で見ると、ロシアなんて北海道のほんの少し先ぐらいの位置にありますからね。モスクワが日本からだいぶ離れているから遠く感じますけど。


藤原

確かに確かに。本当に目と鼻の先ですよね。樺太との境界もロシアに支配されないよう自衛隊が配備されているはずですから。そうやって守らないとどんどん奪われてしまうというのが今の世の中なんですよね。

安田

そうですね。第二次世界大戦の終戦があと1年でも遅れていたら、北海道の半分くらいまでロシアになっていた気がしますよ。北海道の地図を見ていると、「よくここで侵攻が止まったな」と思いますもん。


藤原

本当にそうですよね。ギリギリのところで踏みとどまったんでしょうね。でもその後も国境を守らなければいけないことを考えると、完全な終戦なんてないのかもしれないと思ってしまいます。

安田

今の時代、国境を放棄して旧石器時代みたいに生きることは無理じゃないですか。ただ個人的には、「国家」や「国境」が人間の未来を阻害していることは間違いない気がして。


藤原

そうなんですよね。それでいうと、自分のテリトリーを守りたい、さらには拡大していきたいという欲求とどう付き合っていくかが鍵になる気がします。

安田

そこは少しずつ変化してきているんじゃないですかね。大きい家に住みたいとか、セキュリティを強化したいとなると、どうしてもお金がかかる。そうするともっと一生懸命働かないといけない。


藤原

国においてもそうですよね。軍隊を維持するのに、莫大な軍事費がかかってくる。

安田

ええ。でも今って、皆そんなにガツガツしていないというか。「いや、そんなに頑張ってまで富を得なくても、そこそこ楽しく暮らせればいいや」という人が増えてきていると思うんです。


藤原

ある意味「欲」がなくなっていっているということなんでしょうね。

安田

そうそう。だからアボリジニのような崇高な価値観に戻るというよりは、もっとシンプルに、人間が「堕落」した結果、国境が意味をなさなくなるんじゃないかと。頑張って高い家や車を手に入れたいとか、国のために何かをしたいとか、そういう熱い欲がどんどん冷めていった先に、そういう未来があるんじゃないかと思うんです。


藤原

ははぁ、なるほど。欲が衰退することで、守るべき「金目のもの」も、それを奪おうとする強い動機も、両方なくなっていくと。家の中に盗まれるものがなければ、そもそも鍵をかける必要がないですからね。

安田

そうですそうです。さらに言えば、若い世代になればなるほど、子どもを持ちたいという欲求も減ってきている。自分の遺伝子を残したいという欲がないなんて、すごいことですよ。


藤原

確かに確かに。資本主義社会の中の二極化もその結果なのかもしれませんね。意欲のない人から意欲の塊みたいな人に富が移動していくという構図があるのかもしれない。

安田

二極化による経済格差こそが、今の経済を成立させてますからね。でももうテクノロジーの進化で、そこまで必死にならなくても食べることには困らない時代になってきている。


藤原

「頑張らないと困るのは自分だぞ」なんて言っている人も、それは相手をコントロールしたいだけだったりしますからね。…でもその「欲のない状態」って、果たして人間にとって幸せなんでしょうか?

安田

どうなんでしょうね。ただ、北欧のような幸福度の高い国では、平均して服を4着しか持たない、なんて話も聞きます。所有から解放されることが、ある種の豊かさに繋がっているのかもしれません。


藤原

人間の「堕落」や「衰退」が、新しい形の「進化」なのかもしれない、と。いやあ、これは非常に深いテーマですね。ぜひまた、この続きを話してみたいです。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

Twitter

1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから

CAPTCHA