第77回 稼げる人に共通する「仕込みの時間」とは?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第77回 稼げる人に共通する「仕込みの時間」とは?

安田

経営者と社員って「時間の感覚」に違いがあるなと思うんです。例えばパン屋さんって、営業時間以外に、仕込みの時間があるじゃないですか。


スギタ

そうですね。うちの店でも、生地をこねたり商品を考えたり、お店を開ける前の準備時間がかなり長いです。

安田

そうですよね。私も同じで、午後1時から5時の間を営業時間として、その間しか打ち合わせを入れないようにしているんです。そしてそれ以外の時間は、企画を練ったりメルマガを書いたり、つまり仕込みの時間なわけですよ。


スギタ

ああ、わかりやすいですね。お店が開いている時間だけ働いているわけじゃないよと。

安田

そうなんですよ。でも営業時間だけ見ると、「もっと働けよ」なんて言われてしまう(笑)。でもその他の時間も働いてるわけですよ。給料ももらえないのに。


スギタ

確かに、社員だったら仕込みの時間も給料が発生しますけど、経営者は商品が売れて初めて対価が生まれますからね。

安田

そうそう。だから経営者にとって「仕込みの時間」はお金が出ていく一方なんです。でも仕事全体として考えたら、そこはかなり重要じゃないですか。


スギタ

仰るとおりですね。僕も定休日に一人で仕込みをすることがあるんですが、そこで改善案を思いついたり、新商品のヒントを得たりすることもある。黙々と作業に集中する時間はすごく大事だと思いますね。

安田

よくわかります。そんなふうに「仕込みの時間の重要性」に気づけるかどうかが、稼げる人と稼げない人の差にもなっている気がして。会社を辞めてフリーランスになったとしても、「お金になる時間だけが仕事だ」と考えている人は、なかなか収入が増えていかないんじゃないかと。


スギタ

ああ、なるほど。確かにそういう人だと、仕事が広がっていかないでしょうからね。

安田

そうなんですよ。準備や仕込みの時間も含めて仕事だと捉え、その重要性を理解する。そういう人こそが、結果的に短い労働時間で大きな成果を上げるようになるんじゃないかと。


スギタ

お寿司屋さんの世界とか、まさにそうですよね。営業時間は短いですけど、その裏では膨大な時間を使って下ごしらえをしている。営業時間はいわばそれまで準備してきたことを披露するライブパフォーマンスの場なわけで。

安田

確かに確かに。そして大なり小なりそれはどの仕事でも同じなんですよね。表からは見えない「準備」の側面が必ずある。


スギタ

本当ですね。ちなみにケーキ屋に関して言うと、ショーケースに並ぶケーキって、あの形に仕上げるのは開店前の2時間くらいでできちゃうんですね。でもそこに至るまでにたくさんの準備が必要で。言わば「仕込みの仕込み」が必要なんです。

安田

ははぁ、なるほど。そういった細かい部分、そしてお客さんから見えない部分にこそノウハウが集まるんでしょうね。私のような仕事でも、ネットニュースを読んだり目を瞑って考え事をしたり、家族から見たら「仕事してるのかどうかわからない時間」が大事だったりしますから。


スギタ

そうですね。実際、休日に行ったレストランやホテルでの体験が、新しい商品のインスピレーションになることもあるじゃないですか。プライベートな時間で得たものが仕事の種になったりするわけで、そう考えたらすべての時間が重要だとも言える。

安田

ええ、まさに。ただそういう感覚って、経営者だから持っているというより、持っているからこそ仕事が面白くなって、結果的に稼げるようになるんだと思います。時間給で働くサラリーマン的な気質でいるうちは、仮に起業してもなかなか難しいだろうなと。

スギタ

わかります。安田さんがブログメルマガでよく書かれてますけど、「メニューを持たないフリーランス」の話にも通じますよね。ライターであれば、「これを書いて」と指示された時だけ作業するという。

安田

そうですね。依頼を受けて作業している間だけが仕事の時間で、それ以外の時間はただ待っている状態になっている。でも本当に大事なのは、お店を開けていない時間なんです。


スギタ

そういうお話を聞いていると、発注しやすいメニューを作れているか、どうすれば選んでもらえるかという感覚の大事さに気づかされます。以前は、ものづくり以外の仕事の価値の作り方が、よくわかっていませんでしたから。

安田

依頼は待つものではなく「来させるもの」なんです。お店だって、ただ開けていればお客さんが来るわけじゃないのと同じで。こちらが仕掛けた何かに反応して、狙ったお客さんが来てくれる。この違いは大きいですよ。

スギタ

めちゃくちゃ共感します。その感覚を社員にも伝えたいんですが、経営者が言うと「休日にまで口出しするな」とブラック扱いされそうで(笑)。なかなか難しいですよね。

安田

本当に(笑)。これからは特にその感覚がないと厳しい時代なんですけどね。

スギタ

そうですよね。でも単に必要というだけじゃなく、仕事とプライベートの境界線をあえて曖昧にすることで、見るものすべてが楽しくなる感覚ってありますよね。休日も常に仕事のヒントを探すアンテナを立てているのは、苦痛どころか面白い。

安田

そうそう。「給料が出るから働く」とか「ここからここまでが仕事の時間」ときっちり分けてしまうのは本当にもったいない気がします。

スギタ

自分の「時間」を売っている感覚なんでしょうね。日本ではむしろそういう考えの人のほうが多いような気もしますが。

安田

だからこそ、その時間の価値をいかに高めるか。つまり「自分自身の仕込み」が重要になってくるわけですよ。

スギタ

なるほど! すごく腑に落ちました。自分自身を仕込むって面白いですね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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