第352回 早送りできない仕事

 このコラムについて 

「担当者は売り上げや組織の変革より、社内での自分の評価を最も気にしている」「夜の世界では、配慮と遠慮の絶妙なバランスが必要」「本音でぶつかる義理と人情の営業スタイルだけでは絶対に通用しない」
設立5年にして大手企業向け研修を多数手がけるたかまり株式会社。中小企業出身者をはじめフリーランスのネットワークで構成される同社は、いかにして大手のフトコロに飛び込み、ココロをつかんでいったのか。代表の高松秀樹が、大手企業とつきあう作法を具体的なエピソードを通して伝授します。

本日のお作法/早送りできない仕事

 

効率化、タイパ、コスパ。
時間や手間を減らしたい昨今ですが、時間がかかることは、すべて無駄なのでしょうか。

先日、某業界最大手の役員Tさんと、新規事業についてお話していた時のことです。
新しい事業にも、早い段階で成果を求める声をよく聞きます。
限られた時間や資金を考えれば、大切なことかもしれません。
そんななか、Tさんは、こんなお話をしてくださいました。

「もちろん、早く成果が出ればうれしいですよ」
「でも、時間をかけないと育たない事業もありますから」

お客様の困りごとを聞く。試作品を使ってもらう。うまくいかなければ、また話を聞きに行く。
そうした手間を重ねながら、じっくり育てたい事業もあるのだそうです。

「せっかく、腰を据えて取り組める会社なんですから。その余力は、使いたいですね」

なるほど。
すぐには結果の出ない仕事を、支え続けられること。
それも、最大手ならではの力なのでしょう。

そのお話を聞きながら、ほかのことも考えてしまいました。
手間のかからない趣味。
練習しなくても、上手く弾ける楽器。
探さなくても、全部そろうコレクション。
寄り道も迷い道もない旅。

そして、
一度教えれば、何でもできるようになる新人。
たしかに、楽そうではあります。
ただ、手間を省きたいと思うあまり、育つために必要な時間まで省こうとしていないでしょうか。
新人さんに仕事を任せると、自分でやるより時間がかかることがあります。
説明する。やってもらう。途中で確かめる。うまくいかなければ、一緒に振り返る。
忙しい時には、「もう、自分でやった方が早いやん…」と思うこともあるでしょう。
それでも、昨日まで付き添いが必要だった人が、一人でお客様に説明できるようになる。
教わるばかりだった人が、後輩に仕事を教えている。
そんな姿に出会えるのも、関わり続けてきたからこそなのだと思います。

誰もが、最初は新人でした。
今では仕事の早いあの人にも、何度も質問し、失敗し、誰かに助けてもらった時期があったはずです。

今の自分の仕事ぶりにも、
かつて誰かがかけてくれた手間暇が、残っているのかもしれません。

そう思うと、目の前の新人にかける時間も、少し違って見えてきます。
もちろん、教え方を工夫したり、分かりやすい手順書を用意したり。育成にも、効率よくできることはあるでしょう。
ただ、説明時間を短くできても、本人が経験し、考え、自信をつけるまでの時間は、思いどおりには縮まりません。

誰かが自分にかけてくれた時間を、今度は、目の前の誰かにかけていく。

その積み重ねが、次の世代の力になっていくのでしょう。
人も事業も、手間をかけた分だけ必ず育つわけではありません。
それでも、手間を省くことで、育つ可能性まで摘んでしまうこともあるのでしょう。
何を効率化し、何に時間をかけるのか。

今回のTさんのお話から感じたのは、その判断と、関わり続ける覚悟でした。
早送りでは、得られないものは確実に存在するのであります。

高松も、長年のお付き合いのお客様には、何度も会いに伺っております。

もっとも、夜の席では、 「そろそろ帰りましょうか」と言われてからが、なかなかに長い…

じっくり育てる仕事と、ただ長いだけの二次会…
そんな時間も嫌いではないのですけどね。

 

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高松 秀樹(たかまつ ひでき)

たかまり株式会社 代表取締役
株式会社BFI 取締役委託副社長

1973年生まれ。川崎育ち。
1997年より、小さな会社にて中小・ベンチャー企業様の採用・育成支援事業に従事。
2002年よりスポーツバー、スイーツショップを営むも5年で終える。。
2007年以降、大手の作法を嗜み、業界・規模を問わず人材育成、組織開発、教育研修事業に携わり、多くの企業や団体、研修講師のサポートに勤しむ。

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