日本プロ野球には行かない。
そう断言していた大谷選手を、
日本ハムの栗山監督は強引に指名した。
2012年ドラフト会議での出来事である。
この年は逸材が多く、藤浪投手は4球団、
東浜投手は3球団の重複指名、
つまり奪い合いになったのである。
くじ引きとはいえ、
参加しなければ獲得できる可能性はゼロ。
故に多くの球団がその競争に参加する。
2人の好投手の奪い合いをよそ目に、
栗山監督は全く別の選択をする。
それがメジャー行きを宣言していた
大谷選手の強行指名だ。
今でこそ、あの選択は正しかった、
さすがは栗山監督だと、拍手を送る人は多い。
だが当時は、栗山は気でも狂ったのか、
という反応がほとんど。
密約があったのではないかと言い出す人までいた。
事実、大谷選手が日本ハム入団を決めると、
星野監督は怒りを露わにした。
日本プロ野球に来る気があるのなら、
うちだって指名していたのだと。
だが全ては後の祭りだ。
ビジネス視点でこの出来事を見ると、
栗山監督がズルをしていた訳ではないことが分かる。
密約か、あるいは一か八かのギャンブルか。
確かにそのように見える。
だがそこには、したたかな計算があったのだと思う。
3〜4球団と奪い合って選手を獲得できる可能性と、
大谷選手を翻意させられる可能性。
それを秤にかけたのだ。
奪い合いというレッドオーシャンを捨て、
説得というブルーオーシャンを選んだ。
そしてその戦略は成功したのである。
説得の切り札となったのは、
二刀流という前代未聞の提案であった。
二刀流は無理だという意見は、
彼の活躍によってかき消された。
もはや二刀流の論点は別のところにある。
つまり、投手としても、打者としても、
平凡な記録しか残せなくなるというもの。
どちらかに専念すれば、
大記録が生まれるかもしれない。
確かにその通りだ。
だがその発想は、ドラフトでの競争と同じく
レッドオーシャンの発想なのである。
先発投手として勝ち星をあげ、
打者としてもホームランを打つ。
確かに既存のマーケットでは、
どちらも平凡な数字かもしれない。
だがここに、投打で活躍するという
新たなマーケットが誕生する。
誰もやったことがない。
だから比べようがない。
問題はそこに価値が生まれるかどうか。
その意味において、
大谷選手はもう既に成功しているのである。
新たな指標のパイオニアとして、
メジャーはもう既に彼を認めてしまっている。
尚、メールマガジンでは、コラムと同じテーマで、
より安田の人柄がにじみ出たエッセイ「ところで話は変わりますが…」や、
ミニコラム「本日の境目」を配信しています。
毎週水曜日配信の安田佳生メールマガジンは、以下よりご登録ください。