実は前回の対談の後、ずっと考えていたんですよ。

前回は副業についてでしたよね？

はい。なぜ多くの企業は、かたくなに副業を禁止するのか。

単なる思考停止ではなく、明確な理由があると？

はい。一番の理由は「トップクラスの社員が辞めてしまう」という恐れじゃないかなと。

副業することによって、優秀な人が目覚めてしまうと？

はい。稼ぎも増えるし、仕事だって楽しくなるじゃないですか。時間も自分でコントロールできるし、ややこしい上司や社内稟議も通さなくていい。

外の方がずっといいじゃん、ということがバレてしまうと。

バレます。間違いなく。だから副業を禁止する。つまり、最大の理由は「優秀な人材の流出リスクを避ける」ため。

でも、たとえ副業を禁止しても、流出は止められないですよね。前回の話にも出ましたけど、優秀な人って雇い続けられないですから。

確かにそうなんですけど、会社としては何とかして雇い続けたいと。

それってマイナス面の方が大きいですけどね。

どういう部分ですか？

まず、副業を禁止することによって採用力が下がる。

確かに。それを基準に会社選びをする学生も出てきそうですね。

間違いないです。でももっと大きなマイナスもあります。

何ですか？

雇い続けることによって、辞めてしまう。

それが原因で辞めるということですか？

人って、雇用するから辞めるんですよ。

どういうことですか？

雇用していない人は辞めようがない。

（笑）当たり前じゃないですか！

いや、当たり前じゃない。みなさん分かっていない。

詳しく教えてください。

社員って固定給じゃないですか。

はい。

つまり報酬額が決まっている。そうなると、仕事を喜べなくなるんですよ。

仕事が楽しくなくなるのは固定給のせいだと。

はい。私、実際にやってみたから分かるんです。これは今の会社での話ですが、固定給で人を雇っていた事があって。仕事が増えていくと、だんだん暗くなっていくんです。

仕事が多過ぎるという事ですか？

多過ぎるとは思っていませんでした。実際そんなに多くもなかったです。ただ固定給が決まっていると、出来るだけその人に仕事を振りたくなるじゃないですか。

経営者の立場からしたらそうでしょうね。

でも固定給が決まっている側は出来るだけ受けたくない。

そんなことも無いんじゃないですか。仕事が好きな人もいますよ。

これは仕事が好きだとか、そういう話ではないんです。構造の問題です。

構造？

はい。実はその後、固定給が払えなくなって、受けた仕事ごとの支払いに変えてもらったんです。

ほおぉ。

そしたら対応が１８０度変わりました。

そんなに？

はい。仕事を振るとすごく嬉しそうな顔をして「ありがとうございます！」と言ってくれるようになりました。

嫌がっていたのが、お礼まで言われるようになったと。

はい。だって仕事量が収入に直結するわけですから。それに嫌なら受けなきゃいい。

確かに。でも辞めなくなる、というのはどういう事ですか？

固定給の頃は、本当に辞めてしまうかもしれないと感じていました。仕事を受けるのが嫌そうだったので。

でも今は辞める心配はないと。

だって、考えてもみてください。その仕事が嫌なら断ればいいし、受けたい仕事なら受ければいい。そこから離れていく理由がないです。

自分で距離を調整できますもんね。

そうなんです。そこが重要。固定給が決まっていると「その条件で１００％受けるか、断ってゼロになるか」という二択になります。

１００％が無理なら辞めざるを得なくなると。

はい。だから二択を迫るのではなく、ゆるく付き合う。そうすることによって繋がりが切れなくなる。

でも、ゆるいぶん、希薄な関係になったりしませんか？

いえ、結果的に前よりも良好な関係になりました。向こうから積極的にアプローチしてくれるし、食事をご馳走になったこともあります。手放すことによって主導権は前よりも強くなりました。

なるほど！面白いですねぇ。

優秀な人が辞める時には大抵、何かやりたい事があるんですよ。だったら縛りをゆるくして、それをやらせてあげればいい。

そしたら好きな事ばかり、やるようになるのでは？と考えるのが普通ですよね。

いえ、なりません。生活もあるし現実的にはお金を稼がなくてはならない。仕事のオファーが来て、得意な事でお金が稼げて、やりたい事にもチャレンジできる。断る理由がないです。

でも会社としたら、その「やりたい事に使ってる時間」も、自社のために使って欲しいのでは？

自社の有能な人材の日常を、一度きちんとリサーチしてみるべきです。大抵、とても手間がかかるツマラナイ仕事までさせています。

だから辞めてしまうと。

それもあります。でもそれ以上に、無駄なコストを支払っているという事です。

たしかに。外注すれば無駄なコストが削減できますよね。

はい、その通りです。どんなに優秀でも、その人の時間を１００％活用することなど出来ません。だから、どうしても無駄な仕事までさせてしまう。

ファイリングとか、交通費の精算とか、部下のマネジメントとか・・・

そういう雑用や専門外の仕事をどんどん排除していって、最も得意な仕事だけやらせる。すると効率はめちゃくちゃ良くなる。本人にストレスも溜まらない。

良いことばかりですね。

はい。ただ時間は、かなり余ります。優秀な人材って色々やらされているんですよ。

確かに。優秀な人には仕事が集まりますからね。

はい。それを除外すると時間が余る。でも固定給だと、遊ばせておくわけにもいかない。周りとの兼ね合いだってありますし。

だから外注としてゆるく付き合ったほうがいいと。

絶対その方がいいです。パフォーマンスは上がるし、コストは下がるし、辞める心配もない。

確かに、その通りですね。社会保険料や、有給休暇や、退職金とか考えたら、トータル絶対に安いし。

高齢化した時とか、仕事が出来なくなった時のリスクもないし、その対処に莫大なコストもかかりません。

もはや優秀な人材を囲い込むメリットは何もない。

はい、その通り。

いずれは社員のほとんどが外注になるかもしれませんね。そうなっても会社は困らないと思いますか？

会社は困りませんが、困る人がいます。

誰ですか？

社長。

社長は自立しているイメージですけどね。

いや〜私の経験上、全然そんなことないです。

前にも言ってましたね。ひとりでは生きていけないって。

はい。気がつかないうちに、完全に依存体質になってます。

辞めても社員も会社も困らないけど、社長は困ると。

はい、その通り。