第28回 はんこと社員を手放す「未来組織図」
はんこの廃止が本格的に始まりそうです。
世間では、はんこがなくなると「めんどくさい手続きがなくなる」とか、「役所や会社に行かずともオンラインで済ますことができる」と言われています。
おそらくそのとおりで、対外的には大きな効率化ができると考えられます。
会社組織で考えると、ただ単に効率化してスピードが上がったと、手放しで喜べないかもしれません。
決裁(決済)の承認フローをデジタルに置き換えるとどうなるのでしょうか。
最初は今までと同様に、【主任→課長→部長→役員→社長】のような流れで、決裁をとるのかもしれませんが、それではたいしたスピードが出ません。
おそらく、この先には決裁フロー自体を簡素化する動きになると考えます。
申請、決済や稟議がある一定のルールさえ満たしていれば、勝手に流れる仕組みです。
つまり、ルールを設計してしまえば、承認という仕事が削減されることになります。
【はんこは関所】
はんこは昔の関所に似ています。
関所の役人は、人の往来をチェックして許可を出すという権限を持っていました。
自国の資産を守ったり、悪人の流入を防いでいたのです。
同時に権限を濫用して賄賂をもらったり、関所を通さない役人もいたと考えられます。
はんこも同じで、会社内では無駄遣いの防止、方針に合致することや情報の質を担保することのチェック・承認機能として存在しています。
その付随機能として、権威や権限、そして責任を与えています。
関所がなくなったときには、そこで働いていた役人はどうなったのでしょうか。
今回、はんこを廃止するという動きは、一面的には効率化のように見えます。
しかし、会社組織にとってはもうひとつ重要なことがあり、権威や権限、責任の縮小という流れになりそうです。
権限がルール化されてしまい、そのポストが要らなくなるような気がしています。
極論を言うと、中小企業においては、社長が中間管理職の権限を奪ってしまうということにほかなりません。
【自我の芽生えた社員には】
はんこの廃止に象徴される会社の情報化は、効率と引き換えに、社員から責任も権限もポストも奪います。
しかし、効率化して会社が生き残るためには、情報化は避けられません。
そして責任がないということは、社員が満足するような給料は出せないことになります。
一方で、個人の自我が芽生え始めた社員もいます。
その人達は、自分の人生と会社から得られるもののはざまで、窮屈にしている人です。
彼らはもう、会社が権限や権威を与えられなくなり、自分の満足を給料ややりがいで満たしてもらえなくなっている現状を察知しています。
自我の芽生えた社員には、家族やお客様、社会に対して認められるように、手放してあげるのがお互いの出口のような気がします。
【出戻り可能な外注さん】
会社のデジタル化・情報化の流れの中で、個を活かす組織のひとつの解は、「外注さん」です。
今まで社員としてやってきた仕事をそのまま発注し、会社のマネジメントから外してあげるのはいかがでしょうか。
テレワークで働くような営業さんは、そのような働き方を模索しているかもしれません。
会社にとっては、会社効率化の一つの方法になります。
自我の芽生えた会社員にとっては、仕事をして収入を確保しながら、自分の天職を探すことができる素晴らしい方法でしょう。
ここで必要なことは、出戻りにも門戸を開けておいて欲しいということです。
一旦、会社の外へ出た人たちは、なかなか戻ってこないとは思います。
ただ、彼らが行き詰まった時、受け入れてもらえる所があればとても安心です。
会社の出口を一方通行(出るだけ)にするのではなく、出戻り可能な「出入口」にすることで、より柔軟な働き方や組織の在り方を実現できるのではないでしょうか。
これから会社が行き詰まった時、社会に揉まれて一人前になった彼らが、会社と再び関わることもあるかもしれません。