第92回 おじいちゃんの商品

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

「中国人が工場を買うつもりらしい」
モロッコのパートナーから連絡がありました。
その工場というのは私の家族商売として
スキンケア商品を仕入れている工場です。

モロッコに乗り込んで滞在し、
何件も訪問したなかから探し当てた工場で、
スイス人のおじいちゃんのもと、
丁寧に管理・加工しているのを見て、
お願いをしてわけてもらい、日本で商品化したのです。

そのおじいちゃんも、
モロッコでしか自生しない植物に魅せられ、
移住して工場をつくったと、
楽しそうに話してくれました。

肌につけるものだからということで、
排気ガスの影響のない、
幹線道路から離れた場所に工場があります。
自然をいじりたくないということで、
道路も舗装されておらず、
訪問者が連絡すると4WDで迎えに来ます。
橋がないので小川をジャブジャブ横切り、
後部座席で天井に頭を打ち付けながら、
ようやく工場にたどり着きます。

そんな状態なので、
どんなほら穴で生産しているのか心配になりましたが、
実際訪問してみると、工場は立派な建物で、
工場内部は掃除も行き届いています。
倉庫の管理もきちんとなされていて、
設備も丁寧に磨き上げられているのがわかりました。

世界的なメーカーも一部、
最高級品をその工場に生産依頼していて、
地元の人の製品の評判も抜群の工場でした。

そこが中国人に買われるらしいのです。

中国人が悪いわけではありません。
正当な商取引で工場のオーナーになるのですから。
おじいちゃんが悪いわけでもありません。
もう、スイスに帰りたくなったのでしょう。
知り合ったときからおじいちゃんなので、
8年後の今は、さらにおじいちゃんになっているはず。
工場を手放すのは、致し方のないところです。

ただ、おじいちゃんの細やかな気配りや、
商品への愛情、良いものをつくるノウハウは
継承されないのだろうなと想像できます。

新しいオーナーのもとで、
もっと効率の良い、
もっと品質の良いものが生産されるかもしれません。
そうなったとしても、
果たして新しい商品は、
私が輸入したいものなのでしょうか。
まだ、私自身よくわかりません。

おじいちゃんの商品については、
一年間は買付予約をしているため、
少しばかりの猶予はあります。

そのまま商売を続けるのか、
工場を求めてゼロから旅をするのか、
それとも、生産に乗り出すのか。
近いうちに、決断しなければならなそうです。

 

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- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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