第49回 事業承継の現場から

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

事業承継の現場から

【社長の出口】

お世話になった社長の一周忌でした。

一年前、亡くなったことを聞いたときは、
真っ先に社員さん達と、
ご家族の顔が浮かびました。

「大丈夫かな?」
会社における複雑な事情を、
多少なりとも知っていたので、
心配したのを覚えています。

社長がいないと、
会社が立ち行かなくなるのでは
と考えていたのです。

そして、先日ご家族と社員さんの
元気な姿を見ることができました。
社長なしでも、
会社は動いていくのだなと感じました。

【投資の出口】

そしてもう一つ、
お金はあの世へ持っていけない
といいますが、
投資回収できていないお金は、
現世で誰かに残されます。

社長のもとで働いている際には、
社長と何度も意見を戦わせましたが、
会社がどんなに苦しくとも、
未来への投資だけは、
やり続ける社長でした。

投資回収の見込みのないことを、
(私にはそう見えた)
やめさせようと努力をしていたのですが、
今回、
経営を引き継いだ社員さんの意欲や、
仲の良いご家族を見ていると、
生前の社長の思いを、
きちんと受け止めておられるのだろうと、
感じました。

借金を完済しなければならない、
投資は回収しなければならない、
という私の倫理観のようなものが、
ちっぽけなものだなと。

【正しいこととは】

ここで気づいたのは、
私達の倫理観や正しいと思えることは、
自分自身が生きている間限定
なのだとわかりました。

人は亡くなってしまうと、
なにもできません。
それがわかっているからこそ、
そうなる前に収拾をつけようと思ってしまいます。
ただ、それが正しいことかどうかが
わからなくなってしまいました。

思いが引き継がれていくのであれば、
収拾をつけようという自分の正義感は、
邪魔なものでしかありません。

事実として、当事者は各々の判断で、
自分の人生を歩んでいくのです。

「社長がいないと会社が立ち行かない」
という私の決めつけも、
「あてのない投資はしてはいけない」
という私の思い込みも、
それを引き継いだ人が
上手に自分の人生に織り込んで
行くのだろうと思えてきました。


【いらない正義感】

亡くなった社長が、
今もなおかっこよく微笑んでいる画像を見ると、
自分ももう少し無茶して生きても良さそうだなと、
笑顔になってきます。

そして、
自分の「〜はずだ」や「〜すべき」という
正義感や固定観念を取り除く努力を
していくのは重要だと考えるに至りました。

私の正義感などは、
誰かが全力で生きるときの妨げくらいにしか、
ならないとわかったからです。

 

 

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- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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