第29回 今20代に戻っても、「社長」にはならない理由

この対談について

大阪・兵庫を中心に展開する、高価買取・激安販売がモットーの『電材買取センター』。​​創業者である株式会社フジデン代表・藤村泰宏さんの経営に対する想いや人生観に安田佳生が迫ります。

第29回 今20代に戻っても、「社長」にはならない理由

安田

私もついに来年還暦なんですが、さすがに人生の終盤戦に差しかかってると感じます。藤村さんは私より1歳下だから、その翌年が還暦ですよね。


藤村

そうですね。確かに50代後半ともなると、「人生の残り時間」を意識するようになりますよね。若い頃はまだまだ先があると思ってましたけど。

安田

わかります。ちなみに藤村さんが会社を作ったのって20代でしたよね。


藤村

ええ、26歳で起業しました。

安田

例えばの話なんですけど、もし明日の朝起きたら26歳の頃に戻っていたらどうします? しかも今の知識や経験を全部持ったまま。もう一度人生をやり直せるなら、また社長をやりますか?


藤村

いやぁ、たぶんもうやらないでしょうね(笑)。先がわかってしまう分「これをしたらあかん、あれをしたらあかん」っていうことばかり考えてしまう気がして。

安田

ああ、なるほど。私も会社を作ったのが25歳の時でしたけど、確かに若い頃って何も知らないから、逆に何でもうまくいく予感がしちゃうんですよね(笑)。でも経営のスキルがある状態で世の中を見たら、これをやったら後から大変だろうな、みたいに想像がついてしまう。


藤村

そうそう。そもそも僕が社長になったのも、リスクが見えていなかったからだと思うくらいで(笑)。今の知識で戻ったとしたら「社長なんてバクチみたいな人生はやめとこ」と思うんじゃないかな。

安田

笑。確かに昔のような勢いではできないですよね。私も昔はガンガン人を採用してましたけど、今は怖くてとてもそんなことはできない。実際、今は一人会社で誰も雇っていませんし。


藤村

そうそう。ということで、今の記憶を持ったまま当時に戻れても、もう会社は作らないというか、作れないでしょうね。

安田

ふ〜む、じゃあ社長はやらないとして、雇われる立場はありなんですか?


藤村

確かにもう一度20代からやり直すなら、ナンバー2とかはやってみたいかもしれない。どこかの会社の専務とかね。

安田

へぇ。そういえば以前の対談で、「社長は褒める役に徹したい」と仰ってましたよね。その分、ナンバー2とか3とかが厳しく怒ると。ということは、そのしんどい役割をあえてやるわけですか。


藤村

うーん、まぁガンガン怒りたいということではないんですけど(笑)。ただなんというか、「優秀なナイト」になってみたいなという気がするんです。

安田

ああ、わかる気がします。自分が王様になるんじゃなく、それを守る役目ということですね。いやでも藤村さんの場合、社長よりも優秀すぎて、10年ももたないんじゃないですかね。絶対喧嘩別れになる気がしますけど(笑)。


藤村

ああ、確かにそうなっちゃうかもしれない(笑)。でもこう見えて独立する前は、「勤め人が合ってる」ってよく言われたんですよ。「ナンバー1よりもナンバー2が向いている」とも言われたことあります。

安田

へぇ、そうなんですね。まぁでも確かに、藤村さんは優秀なナンバー2の素質もありそうです。


藤村

ありがとうございます。そういえばアルバイトの頃に、社長の代わりにお客さんのところに謝罪しに行ったことがあったんですよ。

安田

えっ、いちアルバイトが行くなんて、すごいですね。わざわざ謝罪に行くってことは、それなりに大きなトラブルだったんでしょうし。


藤村

今考えるとそうですね(笑)。でも当時は、社長は行きたがらないし、お客さんは来いと言っている。それなら社長を説得するよりも自分で話をまとめてきた方が早いと思ったんです。で、社長の名刺を借りて……

安田

えっ!? 社長のフリをして行ったってことですか?


藤村

そうそう(笑)。若さゆえの勢いですよねぇ。「オチを作ってくるから待っててください」と威勢よく出かけていって、本当に話をまとめて帰ってきました。

安田

ははぁ、すごいなぁ。確かに若さゆえの勢い、という感じもしますが、視点を変えればものすごく優秀なナンバー2ですね。でもそんな藤村さんが今の経験と記憶を持ってナンバー2になるんだとしたら、社長はどんな人がやるべきなんでしょうね。


藤村

うーん、どうだろうな。いっそのこと、無神経なくらいの人が向いてる気がしますね。

安田

ああ、わかる気がします。どんなことがあっても一切気にしないような神経の太い人ですよね。私はまったくそういうタイプじゃないので、そういう社長に会うとうらやましくなるんですけど(笑)。


藤村

笑。経営に関していい意味で鈍感というか、トライandエラーをどれだけ繰り返してもめげない人がいいですね。デリケート過ぎる人って社長業には向かないですから。

安田

それで言うと、どっちかなのかもしれませんよ。「無神経な社長とデリケートなナンバー2」か、「デリケートな社長と無神経なナンバー2」のような。


藤村

ああ、確かにそうかもしれませんね。僕は結構デリケートなので、やっぱり無神経な社長が必要なんでしょう(笑)。テレビなんかを見ていても思いますもんね、「こんな大胆な決断、ようできるな」って。

安田

そう考えると、我々は社長をやるには繊細過ぎるのかもしれませんね(笑)。


藤村

そうですねぇ(笑)。そういえば先日ヤマダデンキさんの総会に行ってきたんですが、82歳になられる山田会長が、最後の中期計画を発表されてまして。「残りの人生をかけて中期ビジョンを達成するんだ」と威勢よく仰ってましたけど、その意気込みはさすがだなと思いましたよ。

安田

確かにそういう「生涯現役」みたいな人ってすごいですよね。ただ最近私は感じ方が変わってきていて、むしろスパッと辞めて若手に譲るような人の方がすごいと感じるようになりました。これも歳を重ねたってことなのかもしれませんけど。


藤村

ああ、確かにそっちもすごいですよね。それにしても、「若い頃に戻りたいか」と言われると、そうでもないなというのが正直なところなんですよね。今の方がいいと思えるのはありがたいことなんでしょうけど。

安田

同感です。私も若い頃に戻りたいとは思わないですね。あんな大変な思いをもう一回やれと言われても無理ですよ(笑)。それよりも今は先に進みたいというか、20代をもう一回やるより、60代を楽しみたいですね。

 

 


対談している二人

藤村 泰宏(ふじむら やすひろ)
株式会社フジデンホールディングス 代表取締役

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1966(昭和41)年、東京都生まれ。高校卒業後、友禅職人で経験を積み、1993(平成5)年に京都府八幡市にて「藤村電機設備」を個人創業。1999(平成11)年に株式会社へ組織変更し、社名も「株式会社フジデン」に変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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