第5回 新事業を始めた理由は「解雇」と言えなかったから?

この対談について

大阪・兵庫を中心に展開する、高価買取・激安販売がモットーの『電材買取センター』。​​創業者である株式会社フジデン代表・藤村泰宏さんの経営に対する想いや人生観に安田佳生が迫ります。

第5回 新事業を始めた理由は「解雇」と言えなかったから?

安田

前回の対談では、藤村さんの経営者人生における「初の大成功」について聞かせていただきました。


藤村

そうでした。もっとも、地デジへの切り替えとかエコポイント制度と重なっただけで、ラッキーだっただけなんですけど(笑)。

安田

そこからいよいよ『電材買取センター』を立ち上げることになるわけですが、事業がうまくいっている中、なぜわざわざ新規事業をスタートさせたんです?


藤村

そうですね。たしかに一時的にグッと売上は上がりましたけど、そのうち落ち着くだろうなと思っていたんです。少なくとも1〜2割は売上が減るだろうと。

安田

ふーむ、なるほど。あくまでも特需的な成功だと考えていたんですね。それで新規事業の立ち上げを考えたと。…とはいえエアコン設置のお仕事から、どうして「買取センター」という発想が出てくるんですか?


藤村

それでいうと、ちょっとした事情がありましてね。実は当時、ヤマダデンキさんからの仕事の他に、あるスーパーさんから宅配センターの仕事も任されていたんです。スーパーで売れた自転車とか布団とかインテリアとか家電なんかを、お客様のところへ配送〜設置する仕事なんですけど。

安田

へぇ〜、そうだったんですか。その業務を藤村さんの社員さんがやっていたと。


藤村

そうですそうです。5名くらいでしたけど、配送手配とか倉庫内の在庫管理とか、いわゆる内勤業務をやってもらってました。ところがある時、そのスーパーさんから「宅配からはもう撤退します」って急に言われてしまって。

安田

おっと、つまりその5名の社員さんの仕事がなくなっちゃったと。それでどうしたんですか? 仕事がなくなったからクビですか。


藤村

いやぁ、とてもそんなこと言えませんでした。会社が苦しい時にもずっと一緒にやってきてくれた仲間に「宅配センターがなくなるから君らクビね」なんて言えませんよ(笑)。とは言え、じゃあその5人はフジデンに戻せばいいって話でもなかったんです。

安田

そうか、ヤマダデンキの売上も落ちてくるってわかっているわけですもんね。


藤村

仰るとおりで、仕事がある保証がなかったんです。それで「ほな、しゃーない。5人のために何か新しいことやるしかない」と。それで急遽『電材買取センター』を出店して、5人にそこでの仕事を任せることにしたんです。

安田

ははぁ、そういうことだったんですね。つまり、その5人を解雇しないために何か新しいことを…と始めたのが『電材買取センター』だったと。


藤村

そうなんです。この経緯を「社員を守るためにお店を作ったんですよね」なんてカッコよく言っていただくこともあるんですけど、実際は僕の気が弱くて「辞めてくれ」って言えなかっただけで(笑)。

安田

笑。ちなみにそれはどれくらい前の話なんですか?


藤村

え〜と、今から12年前ですね。まだ僕も若かったし、スタッフ全員30代〜40代くらいで、みんな働き盛りでしょう? そんな彼らを、とてもじゃないけど解雇する勇気はなかったですね。

安田

まぁでもそこで5人を解雇しなかったからこそ、今の『電材買取センター』があるわけですから。結果オーライなんじゃないですか?


藤村

それはそうなんですけど。でも、僕自身は店を長く続けていく気はなかったんです。財務の取締役に「この店には2000万円を使う。それが無くなったら、店もおしまいにする」って最初から言っていましたから。要は、その5人に「お前たちのために俺は努力したんだぞ」というポーズを見せたかっただけなんですよ。

安田

なんと(笑)。うーん、そんな回りくどいことをしなくても、その2000万円を「退職金」として配ってあげればよかったのに。


藤村

あ、ほんまですね! なんでそうしなかったんやろ?(笑)

安田

笑。ともあれオープンしてみたら成功して、たくさんのお客さんに愛される事業に成長したと。ところで『電材買取センター』は電材のリユースショップということですが、そもそも「電材」ってなんなんですか?


藤村

ああ、確かに一般の方には耳馴染みがないかもしれませんね。「電材」というのは、電気のスイッチとかコンセント、配線、電線、ブレーカーなど、「電気を使うために必要な材料」のことです。

安田

ははぁ、つまり電気工事にまつわるあれこれ、ということなんですね。そう考えると、エアコンの取り付けの仕事をメインでしていた藤村さんが、新規事業として「電材」に着目するのも自然な気がしてきました。知識や経験があるわけで、その分有利ですもんね。


藤村

いやいや、そんな風に合理的に考えてたわけでもないんです。5人を解雇しないために新事業をすることは決めましたけど、何をしようかというのは全く考えていなくて。で、「何かのFCをやるのが一番手っ取り早いかな〜」なんて考えているときに、たまたま『タックルベリー』を見かけて。

安田

『タックルベリー』って、中古の釣具ショップですよね?


藤村

そうですそうです。当時はすごい勢いでFC展開していたんですよ。で、ウチの会社のNo.2は釣り好きなんですけど、彼と「釣りをする人口より、電気を扱う人口のほうがずっと多いから、タックルベリーの電材バージョンって案外イケそうやない?」って話になったんです。

安田

ははぁ、なるほど。そこで初めて「電材のリユースに特化したお店」という事業アイデアが出てきたと。


藤村

ええ。そしたらちょうど東京ビッグサイトでFCショーをやっていて、タックルベリーの担当者さんと話せるチャンスがあったんですね。で、根掘り葉掘り聞いているうちに「釣具と電材、思った以上に似ているぞ!」となりまして。

安田

ふーむ、なるほど。ちょっとしたアイデアだったけど、いけそうな雰囲気がしてきたと。…でも釣具と電材って全然違うじゃないですか。どのあたりが似ていたんですか?


藤村

端的に言うと、商品価格の幅が広いっていうところです。釣具も電材も、10円で買える小さいものから何十万円もするものまでたーくさんある。扱う商品は全然違うけれど、その点ではすごく似ていたんです。

安田

へぇ〜なるほどなぁ。それで『タックルベリー』のビジネスモデルを参考に『電材買取センター』をつくられたわけですね。いやぁ、おもしろいです。

 

 


対談している二人

藤村 泰宏(ふじむら やすひろ)
株式会社フジデンホールディングス 代表取締役

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1966(昭和41)年、東京都生まれ。高校卒業後、友禅職人で経験を積み、1993(平成5)年に京都府八幡市にて「藤村電機設備」を個人創業。1999(平成11)年に株式会社へ組織変更し、社名も「株式会社フジデン」に変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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