第20回 優秀な社員を育てるために必要なこと

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第20回 優秀な社員を育てるために必要なこと

安田

以前、藤原さんのメルマガに「優秀な人材ほど自由に仕事させた方が成果が出る」ということが書かれていました。このあたりはクレド(行動指針)にも関わってくると思うんですが、詳しく教えてもらえますか?


藤原

ああ、あの話ですね。わかりました。

安田

そもそもの話、「在籍している社員全員が優秀」という会社なんてないじゃないですか。社長もそれをわかっているから、基本的には「社員はちゃんと管理しないといけない」と思っている。


藤原

そうですね。大抵の経営者さんはそう考えているんじゃないでしょうか。

安田

ですよね。もっと露骨に言えば、「社員というのは管理しないとサボる」と考えている。だから今回のテーマである「自由に仕事をさせた方が成果が出る」という考えを持つのは、なかなか難しいんじゃないかと思って。


藤原

仰りたいことはわかります。実際、社員を信じられない社長は多い。オフィス用の監視カメラや、リモートワークの社員がちゃんと仕事をしているか調べるアプリが売れているのも、そういうことなんだと思います。

安田

ええ。そういう中で藤原さんは「優秀な社員は自由にさせろ」と言っている。自由にさせることができていないのは、社員が優秀じゃないからなんですかね。


藤原

単純にそういう面もあるでしょう。ですが、私は少し違う見方をしています。というのもね、少しややこしい言い方になりますが、社員は社員で「管理されないと仕事ができない」と思っていたりするんですよ。

安田

ははぁ、おもしろい視点です。つまり社員の方も「管理されること」をどこかで望んでいると。つまり、ちゃんとルールを敷いてもらって、ああしろこうしろと事細かく指示されないと、働けない。


藤原

ええ。しかし、じゃあなぜ彼らがそう思い込んでいるかというと、それはやっぱり企業が、あるいは先輩がそう教えるからですよ。ルールを守りなさい、言われたことだけやりなさい、そうすれば成果が出るから、と教えている。

安田

なるほど。それが年々受け継がれていくわけですね。


藤原

そうそう。会社はそう教え、社員もそれが常識なんだと理解し、やがて先輩になったら、後輩にそう教える。結果、その会社には「管理されずに自由に働く」という発想がなくなっていく。

安田

なるほど。個人の能力だけの問題ではないというわけですね。とはいえ、その状況を変えるのはなかなか大変な気が。藤原さんならどうしますか?


藤原

単純に、少しずつでもそういう機会を設けていくほかありませんよね。監視カメラやPCアプリで見張るようなことばかりせず、自己管理のための研修を実施したり、新事業のためのブレストをやったり……とにかく今までの常識を変えていく必要がある。

安田

なるほど。つまり会社側が考えを変える必要があると。


藤原

そう思いますね。社員自らそれを実践しろというのは酷だと思います。まずは会社側で環境を整備していく必要がある。そうすれば徐々に、会社の後押しがなくても自主的に動き出す社員が出てくる。そういう社員=優秀な社員なんですよ。

安田

ははぁ、なるほど確かに。そしてそういう主体的な人材に任せた方が、会社の利益も増えていくというわけですね。


藤原

その通りです。ただ重要なのは、ここで言う「利益」は必ずしも「会社の利益」というわけじゃないよ、「自分の利益」でもあるんだよ、と社員自身に理解してもらうことで。

安田

ほう、それはどういう意味ですか?


藤原

まず前提として、主体的な社員、自分から動ける社員の方が、効率的で生産性の高い働きができます。いろいろなことを自己管理・自己完結できるから、短い時間で大きな成果を出せるわけです。

安田

それはそうでしょうね。指示待ち、かつ言われたこと以上はしない社員より、当然生産性は高いでしょう。


藤原

ですよね。そして当然、会社はそういう社員を評価し、役職や給与で応えようとする。つまり出世もすれば給与も上がるってことです。

安田

ああ、なるほど。つまり自己管理できる社員になった方が、本人も得なんですね。クライアントからも評価されて、人脈が広がっていくかもしれないし。


藤原

そういうことです。もっとも、全員が全員そういう働き方ができるわけではないですから、社内ルールやマニュアルも必要なんですけど。自己管理できない人を自由にさせても、成果が上がらないどころか、ミスを連発して余計コストが上がったりするだけなので。

安田

ああ、確かにそれはそうですよね。そしてそういうミスばかりする社員って、自分がコストになっていることにすら気付かなかったりする。


藤原

そうですね。逆に言えば、会社のコストや利益を「自分事」と考えられる人は、その時点で「優秀な社員」だと言えます。

安田

なるほど。確かにそうかもしれません。


藤原

そして、何より重要なのは、そういう優秀な社員に「経営者が気付けるかどうか」なんですね。経営者自身が優秀でなければ、社員が優秀かどうかわかるはずもない。結局、そこが一番のキーになるんじゃないかな。

安田

ははぁ、なるほど。でも仮に気付けたとしてもですよ? そこからどうすればいいんですか? さっき話に出たように、出世させたり給与を上げればいいんですかね。


藤原

会社の経営状況によっては、お金やポストなどの外的報酬で応えられないこともあるでしょう。そういう場合も、「そこまで考えながら働いてくれて、本当にありがとう!」と伝えればいい。つまり内的報酬を与えるということです。

安田

ああ、そうでした。外的報酬だけじゃなく内的報酬も大事なんでしたね。…ちょっとお話を聞いていて思い出したんですけど。私の息子が就職活動をしていた頃、大手の内定をもらっていたのにも関わらず、「害虫駆除会社に就職したい」って言い出したんですよ。


藤原

ほう。それはその大手の内定を蹴って、ということですよね。

安田

そうそう。で、息子が私に申し訳なさそうに言うんですよ、「せっかく大学まで行かせてくれたのに、すみません」って。もちろん彼の人生なんだから「好きにしていいよ」と言いましたけど。


藤原

うーん。理解のある優しいお父さんだ(笑)。

安田

笑。その上でね、こんなアドバイスをしたんですよ。「会社に入ったら、どうやったら会社の売り上げが増えるのか、自分以外の社員がどうやったらもっと活躍するかを考えながら働くといい。そうすれば君は間違いなく出世するよ」とね。


藤原

ははぁ、まさに今日話していたような「優秀な社員」になるためのアドバイスですね。本来ね、そういうアドバイスを社内でし合うべきなんですよね。でもその大切さを、社員はおろか経営者自身も気付いてなかったりする。

安田

その原因の1つは、子供の頃からの偏差値教育かもしれませんね。あれは相対評価ですから、誰かの成績が上がれば、自分の評価は下がってしまう。


藤原

ははぁ、なるほど。確かにそうかもしれない。結果、社員同士が足を引っ張り合うようなことになってしまうのかもしれませんね。

安田

ええ。だから「自分以外の社員を応援する」「会社の仕事を自分事化する」みたいな発想にならないんでしょう。それじゃ「優秀な社員」なんてなかなか育ちませんよね。


藤原

本当にその通りです。まずは優秀な社員が育つ環境を会社が整えること。そこに尽きると思いますね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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