第29回 経営とは「規模感」か「活動内容」か

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第29回 経営とは「規模感」か「活動内容」か

安田

私がまだワイキューブをやっていた頃、とあるセミナーで「経営とは何か」というお話をさせていただいたんです。


藤原

ああ、よく覚えています。「あなたは“いつ”経営をしていますか?」という問いかけをされていましたよね。

安田

そうです。よく覚えてますね(笑)。それに対して「24時間経営している」と答える経営者さんが割と多かったんです。確かにそういう感覚になるのもわかるんですけど、営業や事務作業をしている時間は「経営をしている」とは言えないんじゃないかと思っていて。


藤原

確かにそうですよね。そもそも寝ている時間はどうなるの? って話なわけで(笑)。ちなみに安田さんの「経営の定義」ってどうなっているんですか?

安田

私の「経営の定義」は明確で、「社員を雇っていて、ある程度の規模感があること」ですね。そういう意味で、私自身はいま「経営」はしていないわけです。ひとり法人だったり、仲間同士少人数だけの会社しかやっていないので。


藤原

ああ、なるほど。規模的にも大きくないし、それに、社員さんも雇っていませんもんね。

安田

そうなんです。じゃあいま自分がやっているのは何だと聞かれたら、「商品開発」と「マーケティング」なんですよ。


藤原

ふーむ、なるほど。でもそう考えると、安田さんが提唱されている「雇わない経営」というのはちょっと妙です。「雇わないと経営じゃない」と仰っているのに、「雇わない経営」を標榜されている。

安田

ああ、いえ、「雇わない経営」というのは、一人も雇わないということではないんです。「雇用だけでなくフリーランスや業務委託をうまく使いながら組織を作っていこう」という意味なので、ちょっと方向性が違うというか。


藤原

ああ、なるほど。雇用だけにとどまらずに柔軟に経営していこう、ということなんですね。

安田

そういうことです。それに、先ほどの定義はあくまで私自身の考え方で、仮に1人も雇っていない会社でも、「自分は経営をしているんだ」と考える方は当然いると思います。むしろ、一般的にはそちらの方が自然なんじゃないかな。


藤原

確かにそうかもしれません。ちなみに安田さんはなぜそういう定義を持つようになったんです?

安田

ワイキューブ時代は、たくさんの社員を雇って大きなビジネスをしていましたから、ハッキリと「経営」をしている実感があったんです。でもそこから状況が変わり、今のようにごくごく小さな会社しか持たなくなった。そして感じたわけです。「私はいま経営をしているわけではないな」と。


藤原

なるほど。両方経験したからこそ、その違いを実感されたわけですね。

安田

そういうことです。やっぱり「ある程度のお金と人を動かしてこそ経営なんだ」と、体感でわかってしまったというか。


藤原

「お金と人」というと、将棋でいう「飛車と角」みたいなものですよね。

安田

ええ、まさにそんな感じです。例えば「このお金を何に使ったら、1年後に一番増やせるのか」とか、「社員の時間を何にどのくらいかけると一番利益が残るのか」を考えること。それが経営者の仕事なんじゃないかと。


藤原

確かにそうですね。「できるだけ低い金利で資金を増やす」とか「できるだけ安い給料で優秀な人材を揃える」とか、まさに経営的思考だなと思います。

安田

ええ。今の私はそういったことをまったく考えていないので、そういう意味で「経営者ではない」という認識で。もっとも、世間一般の会社、特に中小企業って、「お金を動かして利益を増やす」という発想はあまりないんですよね。「人を動かして利益を増やす」方ばかりやっているイメージです。


藤原

ああ、確かに。「お金を上手に使う」という意識はあまりないのかもしれない。どちらかというと、「会社を維持するためにはどうしてもお金がかかる。その支出はなるべく抑えたい」みたいな感覚なのかなと思います。

安田

そうそう。実際、会社に利益を残すって大変ですからね。私も会社を作って10年くらいは全然利益が残らなくて、どうしたもんかと悩んでいましたよ。それで経営が上手な人をじっくり観察してみたんですが、皆お金の使い方が上手なんですよね。


藤原

おもしろいですよね。利益を大きくしようと考えたとき、普通は「お金をなるべく使わない方が増える」と思いがちですが、実は逆で、「お金を使った方が増える」。もちろん、上手な使い方をすれば、ですけれど。

安田

そういうことです。逆に言えば、私が利益を残せなかったのは、「お金を上手に使えていなかったから」なんですよ。そしてその「お金の上手な使い方」を考えることこそ、経営の醍醐味でもあると言えるわけで。


藤原

なるほどなぁ。そこに気づけるか気づけないかは大きいですよね。

安田

本当に。だから割と多いのが、売上は高いのに利益がほとんどない、というパターンです。こういう場合、何かに投資しようと思っても原資がないわけで、なかなか「経営」ができない。まずは金利の低いお金を引っ張ってくるところから始めなければならないわけです。


藤原

確かにそうですよね。ちなみに話に出たのでお聞きしたいんですが、安田さんは金利についてはどういうお考えを持ってます?

安田

私がセミナーをやっていた当時、銀行の金利は3%台でした。つまり、仮に1億円を借りたとしても、利子は300万円しかかからないわけです。逆に言えば、1億円を使って300万円の利益さえ出せばペイできてしまうわけですよ。それすらできない経営者はたぶん経営に向いていない、と思っていましたね。


藤原

なるほど(笑)。確かに仰るとおりですね。今なんてもっと金利が下がっているわけだから、なおさらですね。

安田

そう思います。もっとも、先ほどもお伝えしたように、私は何百人という社員や何億円という資金を動かすような世界からは離れているわけで、偉そうに言える立場じゃないんですけどね(笑)。ちなみに藤原さんにとっての「経営」とはどういうものなんですか?

藤原

うーん、私がもし「経営とは何ですか?」と聞かれたとすると、「目的に向かって最善を尽くしていく活動」と答える気がします。

安田

なるほど。規模感や社員数ではなく活動内容だと。

藤原

そうですね。一方で、「経営とはお金を上手に使うことだ」というお考えにはすごく共感します。1人でも資金が数百万単位でも、その目的に向かって上手にお金を使っていくことが大事なのかなと。

安田

なるほど。確かに、規模感に関わらずそれが一番大事なことですよね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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