第30回 「守りの経営」からの脱却

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第30回 「守りの経営」からの脱却

安田

前回もお話しましたが、「本来経営ではない部分を経営と捉えている」人って、割と多いんじゃないかと思っていて。「いつ経営をしているんですか?」と聞いて、「24時間やってます」みたいに答える人が典型だと思うんですけど。


藤原

経営の定義は自由ですけど、仰りたい意味はわかります。「お金を稼ぐこと」と「経営」って実はイコールではないんだけど、そこがなかなか伝わらない人、いますよね。「今日も一生懸命お金を稼いだから経営者として頑張った!」みたいな。

安田

ああ、すごくよくわかります。「それは経営じゃなく営業でしょ」と突っ込みたくなりますよね。24時間経営しているという人も、もちろん24時間経営者ではあるんでしょうけど、経営だけをしているわけじゃない。


藤原

「経営してる」って具体的にどういう状態なのかを聞かれたときに、明確に答えられないとダメだと。ちなみに安田さんだったらどんなふうに答えます?

安田

私だったら「時間とお金の使い方を考えること」だと答えますね。他にも考えなければいけないことはたくさんありますけど、上流に遡っていくと結局は時間とお金に辿り着くので。


藤原

同感ですね。私はそこに人も加えて捉えていますが、人を雇うのにもお金や時間を使うわけで、最終的にはすべて時間とお金に集約されますよね。

安田

そうそう。それは会社経営じゃなくても、たとえば個人事業主やフリーランスの場合も同じだと思うんです。でも、多くの方は「お金を稼ぐこと」ばかりで、「お金をどう使うか」は考えていない。


藤原

ああ、確かにそうかもしれません。そもそも一般的にお金って、「使うと減るもの」だと思われ過ぎなんですよね。ビジネスだとその感覚はむしろ逆で、「お金は使わないと増えない」という考えにならないとうまくいかない。

安田

本当にそう思います。自分で経営をやってみると「お金は使うと増えていくもの」だという感覚が体感としてわかってくるんですけどね。


藤原

でもそういう感覚がない経営者さんもいませんか? 一切外注せず全部自分でやろうとしちゃう人とか。個人的には、2代目3代目にそういう人が多い気がしますけれど。

安田

多いですね。むしろそういう人がほとんどかもしれない。お金が減らない「守る経営」を受け継いでいるんでしょうね。確かに以前はそれで正解だったのかもしれませんが、時代はかなり変わってきていて、今は守っているだけではどんどんジリ貧になっていく。


藤原

とはいえ「先代の経営方針に引っ張られる」というのは、根深い課題だなとも思うんです。簡単に変えられるものじゃないよなぁと。

安田

逆に言えば、先代に経営センスがあれば、2代目3代目もやっぱりうまくいくんですよね。個人的に重要だなと思うのが、若い頃に失敗を経験させてもらっているかどうか。


藤原

ほう、それはどういう失敗ですか?

安田

たとえば先代から5000万とかの予算をもらって、好きに使わせてもらうわけです。先代は一切口出ししない。経営の素人がやるわけですから、けっこうな確率で大失敗するわけですけど、そういう経験を若いうちにしておくことが、後々の大きな財産になるわけです。


藤原

ああ、素晴らしいですね。そういう経験をするからこそ、お金の使い方が上手くなっていくわけですもんね。

安田

そうそう。同じ失敗をしないよう次はいろいろと考えるでしょうし、知識も積極的に得るようになる。で、40代になって社長を引き継ぐ頃には、自分で判断できるようになっているわけです。そういうことを見越して「失敗させて学ばせる」ことをしている経営者は、センスがいいなぁと感じますね。


藤原

ははぁ、なるほどなぁ。逆にそういう経験をさせてもらっていない2代目3代目はしんどいですよね。生え抜きの幹部社員が一生懸命進言しても、なかなか変わらなくて苦労している会社もあると聞きます。どう考えても必要な投資なのに、うんと言ってもらえなかったり。

安田

それに関しては、個人事業主がビジネスに投資ができないのと同じだと思っていて。会社のお金=自分のお金って思っていると、なかなか投資ってできないんですよ。だから個人事業主も、まずは法人を作って自分の財布と分けることが大事で。


藤原

ああ、なるほど。生活費と切り離して、「これはお金を増やすために使うお金」だと理解する必要がある。

安田

そういうことです。実際法人化するだけで「お金を使うセンス」が上がっていく人もいますから。先ほど出た2代目3代目の方も、どこかで自分の財布と一緒だと捉えちゃってるんだと思いますね。本当は別物なんですけど、中小企業の経営って一体化していることも多いですから。


藤原

確かに。自分の家が抵当に入っていたり、個人保証をしていたりしますもんね。意識を変えるためにも、まずは形から分けていく必要がありますね。

安田

途中から分けるのはなかなか難しいとは思いますけど、やった方がいいでしょうね。例えば投資のためだけに使う口座を作って、年間予算を決める時にその口座に1000万円入れるんです。そしてそのお金は、「新しいものへの投資にしか使わない」と決める。


藤原

ははぁ、ある意味「今年は1000万損するぞ!」と決めるわけですね(笑)。

安田

もちろん成功したほうがいいですけど、実際はそういうことですね(笑)。でもね、そういう感覚がない人にこういう話をしても、伝わらないんですよね。「そもそもその1000万円なんてどうやって作るんだ」なんて言われちゃったりして。


藤原

ああ、なるほど。でも皆そこが聞きたいんじゃないですか? どうやって投資のための原資を作るのか、っていう。

安田

まぁそれはいろんなやり方があるんですけど、皆さんがなぜか気付かない「宝の山」があるんですよね。


藤原

宝の山? それはぜひ知りたいでしょうね。一体何なんです?

安田

ズバリ「赤字社員」です。これを数名減らすだけで、年間数百万〜数千万の経費が減るんです。

藤原

な、なるほど……なかなか大胆な発想の転換ですね。

安田

もっともこれは、「赤字社員をクビにしろ」という話ではないんです。そうではなくて、「赤字社員を放置している経営者のマインド」についての指摘で。先ほどの投資の話もそうですけど、「新しい何かをするためにお金を使う」ことには消極的なくせに、仕事のできない社員は放置して、下手をするとさらに増やそうとする。

藤原

ああ〜、確かに(笑)。だったら社員を減らして、その仕事を腕の良いフリーランスに外注したほうがはるかにコスパがいいと。

安田

まさにそういうことなんです。先ほどの「自分の時間を使えばお金がかからない」という感覚と同じで、「社員にやらせたら外注費がかからない」と思っている人が本当に多くて。社員に払っている給料のことを忘れてしまってるんでしょうね。

藤原

それはありますね。節約志向の人ほど実は節約が下手だったりしますもんね。

安田

本当にそうですよ。SNSの企画を考えるとか商品名を考えるとか、すごく重要なことなのに外注せず、手の空いてる社員に頼んだりするでしょう? そんなのでいい案が出るはずないじゃないですか。

藤原

そうですね(笑)。言われた社員側も、「めんどうくさいなぁ」と思いながら渋々やるわけで。

安田

そうそう。そうすると当然のことながら時間はかかるしクオリティも低いものしかできない。極論を言えば、社員にむやみに仕事を振らずに、どんどん外部に振っていって、仕事がなくなった社員が辞めていくのを待つ。これがベストじゃないかと。

藤原

笑。やっぱりなかなか大胆なアイデアでしたね(笑)。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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