第5回 社長室は、本当に必要か?

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第5回 社長室は、本当に必要か?

安田

さて今回も引き続き、従業員満足度についてお聞きしていきます。中でも今回は「社長室は必要か?」についてお話がしたくて。


藤原

ああ、いいですね(笑)。おもしろそうなテーマです。

安田

意外に思われるかもしれませんが、ワイキューブ時代の私は、社長室を作らなかったんです。というか、社員全員が社長室のような環境で働く会社にしたかった。だからオフィス全体を社長室のような造りにしたんです。それで随分とお金を使ってしまいましたけど(笑)。


藤原

そうなんですね(笑)。さすが発想がユニークだ。

安田

藤原さんはどうお考えですか? 「従業員満足度」という観点で考えたとき、社長室は必要だと思いますか?


藤原

そうですねぇ。私個人としては、必要ないと思っていますね。メリットよりもデメリットの方が大きいんじゃないかと。

安田

ほう。デメリットと言いますと?


藤原

社長室って、ある意味「壁」として機能してしまうんですよね。社長と社員の居場所を物理的にわけてしまうと、それだけコミュニケーションのハードルが高くなります。それに、互いの行動が見えないぶん、不審感につながるケースも多いんじゃないかなと。

安田

ああ、「社長は俺たちばかり働かせて、中でサボってんじゃないか?」と思われてしまうわけですね(笑)。じゃあ、中が見える「ガラス張りの社長室」にしたらいいんじゃないですかね。


藤原

ああ、一時期流行っていましたね。うーん、これは好みの問題でもあるんでしょうが、いかにもって感じがしてどうかなと(笑)。ちょっとわざとらしすぎるというか。

安田

確かにそうですね(笑)。「私は何も隠していませんよ」って、わざわざ言っている感じです。パフォーマンス的で、逆にもっと怪しく見えてしまうかも(笑)。


藤原

それに、これは先ほどの言葉と矛盾するようですが、「互いの行動が筒抜けであればいい」わけじゃないんですよね。ガラス張りにしたからって、中で社長が遊んでばかりいたら、やっぱり社員は不満を抱くわけで。

安田

そりゃそうですよね(笑)。とはいえ、そこってけっこう難しい問題だと思うんですよ。というのも、社長の仕事って一般社員と質が違うでしょう?


藤原

確かにそうですね。社員から見ると遊んでいるように見えることが、実は経営において非常に重要なインプットになったりもするし。

安田

そうそう、まさにそういうことなんです。実際、遊んでいるときに仕事のアイデアを閃くことは当たり前にあるわけで。


藤原

むしろそうやって、「仕事以外のところからどうアイデアを持ってこれるか」だとすら言えますよね。慣れ親しんだ業界の情報にばかり触れていても、新しいビジネスアイデアは生まれない。

安田

仰るとおりですね。場合によっては、真面目に働くよりマンガや小説をたくさん読んでいた方が成功するのかもしれない。


藤原

笑。極端に言えばそういうことですよね。経営者がどれだけアンテナを広げていられるか、というのは非常に重要だと思います。もっとも、先ほどの話で言えば、社長室でマンガばかり読んでいる社長は評判が悪くなるでしょうけど(笑)。

安田

そうでしょうね(笑)。そういえば、有名棋士の羽生善治さんが言っていました。「奥さんからはいつも自宅でボーっとしているように見えているだろうけど、私の頭の中は常に将棋のことでいっぱいなんだ」って。


藤原

なるほど、わかりやすい例えですね。マンガを読み耽っているように見えても、頭の中はビジネスでいっぱいなんだという。

安田

そうそう。だからなかなか社員には理解できないと思うんです。ただ現実的に考えて、社長が社員とまったく同じ働き方をしていたら、その方が心配になってしまう。


藤原

そうですね。実際社長の仕事って、現在進行形の業務だけじゃありませんから。むしろ未来を決めることが経営者の仕事だと言える。そのために必要なアイデアや戦略って、むしろ別のことをしているときの方が思いつきやすいんですよね。

安田

そういう意味もあってか、成功している経営者仲間は「社長室は必要だ」と言う人が多いんです。透明じゃない壁で囲われた部屋がないと、ゆっくりマンガや小説が読めないから(笑)。


藤原

笑。まぁ、経営的な意味でも、感情的な意味でも理解はできます(笑)。社員の立場で考えても、社長のサボっている姿を見たくはないでしょうし。

安田

そうですね。とはいえ藤原さんとしては、「従業員満足という観点からは社長室は必要ない」という考え方なんですよね。


藤原

もちろんいろいろな会社さんがあると思うので、一概には言えませんけれど。ただ私個人としては、「社員に見られて困るような行動はしない」という前提で経営する方がいいと思っているんです。

安田

ああ、なるほど。つまり経営者だとしても、仕事中にマンガや小説を読んではいけないと。


藤原

私は読まないようにしている、ということですね。新聞や仕事に関する書籍なら問題ないと思いますけれど。

安田

なるほど。そういう意味では、「経営者としてあるべき姿」と「従業員満足度の上がる会社環境」は、必ずしもイコールではないということなんでしょうね。


藤原

そうですね。社長が社員からどう見られているのか、というのは重要な観点だと思います。「俺は経営者なんだから、何をやっていても文句言うな」なんて会社で、従業員満足度は上がりませんからね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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