人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。
第7回 クリニックの離職率が高くなる理由

私の顧問先に、クリニックを経営している会社さんが何社かあるんですが、皆さん「現場の人が足りない!」とすごく困っているんですよ。採用も簡単じゃないし、既存社員も辞めていってしまうし、どうしたらいいんだと。

お医者さんって、やっぱり皆さんものすごく頭がいいんです。勉強もできるし、人とのコミュニケーションにおいても、1を聞けば100までパッと想像できてしまう。その結果、身も蓋もない言い方をすれば、周囲の人を下に見てしまう傾向があって。

ええ。さらに厄介なのは、そういう態度は周囲にも影響するんですね。医師が看護師を下に見て、看護師は技師を下に見て、技師は医療事務を下に見て……という悪い連鎖が起こってしまう。そんな職場に、人はなかなか定着しません。いくら外的報酬を上げてもね。

……なるほど、そういうことなんですね。でも、中にはそうじゃないお医者さんもいると思うんですよ。「コミュニケーションは確かに苦手、でも決して社員を下に見ているわけじゃない、ちゃんと大切に考えている」そんなケースもあるんじゃないですか?

そうそう。私のいた人材業界でも、「偏差値が10違うと会話が通じない」ってよく言われていたんです。使う言葉も違えば、理解スピードも違う。それってもう仕方のないことで、お医者さんばかりを責めるのはかわいそうな気もするんです。

仰っている意味はわかります。でも従業員満足度の専門家として言わせていただくと、従業員に気持ちが伝わっていないなら、それは何もしてないのと同じです。「なんで俺の気持ちが伝わらないんだ」と憤っていても意味はない。

ただね、現実的にはそういうタイプより、やっぱり「本当は大切に想っていない」というケースの方が多いような気がします。心の底では「なんで俺が従業員にそこまで尽くさなきゃいけないんだ」って思ってる。そこまでじゃないにしても、「給与と休みさえ増やしとけばいいんでしょ?」くらいに考えているお医者さんは大勢いるでしょうね。

ああ、なんだか夫婦の関係を思わせる話ですね(笑)。旦那は「ちゃんと稼いで家に金入れてるんだからいいだろ」と思ってるけど、妻は「お金なんかより、私の悩みを聞いてほしいのに」と思ってるような(笑)。

そういうことです。「先生、利益もっと出したいですよね」「そのためには従業員に動いてもらわなきゃいけませんよね」「じゃあ、従業員がイヤイヤ50%の力で働いたときと、職場に満足して100%の力で働いたときと、どっちが効果出そうですか?」と。

確かに。逆に言えば、イヤイヤ50%で働く従業員を放置している限り、売上も利益も下がり続け、人手不足の問題も解決どころか悪化していく一方だと。経営者脳で考えれば、「従業員満足を上げたほうが絶対にいい」という結論になりますね。

仰るとおりです。だからこそ、冒頭お伝えした「オーナー医師がスタッフをどれだけ大切に想えるか」がすべてなんです。心から、本気で社員を大切だと思えたら、彼らの満足度を上げることは「手段」ではなく「目的」になるでしょう?

ええ。そしてそれは結局、お医者さん自身が気づいていく他ない。私はあくまでそのキッカケを与えるだけです。もちろん、キッカケがなかったら変わることもできないわけですから、重要な役割であると自負はしていますけれど。
対談している二人
藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表
1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。