第7回 クリニックの離職率が高くなる理由

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第7回 クリニックの離職率が高くなる理由

安田

私の顧問先に、クリニックを経営している会社さんが何社かあるんですが、皆さん「現場の人が足りない!」とすごく困っているんですよ。採用も簡単じゃないし、既存社員も辞めていってしまうし、どうしたらいいんだと。


藤原

ああ、私のクライアントさんにもクリニックが多いので、よくわかります。

安田

実際どうしたらいいんでしょうね。採用はひとまず置いておくとしても、既存社員の退職率だけでも何とか下げられないものでしょうか。


藤原

そうですね。5〜20名くらいの比較的小規模なクリニックさんの場合ですと、ポイントは結局「オーナー医師がスタッフをどれだけ大切に想えるか」なんですよね。いきなり情緒的な話で恐縮なんですが(笑)。

安田

え? 給与を上げるとか休日を増やすとかよりも、そういう感情的な部分が大事なんですか?


藤原

もちろん給与などの外的報酬をアップさせることも大切です。でも、こと医療系に関して言うと、ひとつ厄介な問題があるんですよね。

安田

厄介な問題というと?


藤原

お医者さんって、やっぱり皆さんものすごく頭がいいんです。勉強もできるし、人とのコミュニケーションにおいても、1を聞けば100までパッと想像できてしまう。その結果、身も蓋もない言い方をすれば、周囲の人を下に見てしまう傾向があって。

安田

ああ、そうか。下に見ているってことは、つまり「大切には想えない」ってことですもんね。


藤原

ええ。さらに厄介なのは、そういう態度は周囲にも影響するんですね。医師が看護師を下に見て、看護師は技師を下に見て、技師は医療事務を下に見て……という悪い連鎖が起こってしまう。そんな職場に、人はなかなか定着しません。いくら外的報酬を上げてもね。

安田

……なるほど、そういうことなんですね。でも、中にはそうじゃないお医者さんもいると思うんですよ。「コミュニケーションは確かに苦手、でも決して社員を下に見ているわけじゃない、ちゃんと大切に考えている」そんなケースもあるんじゃないですか?


藤原

ふ〜む、つまり社員たちに気持ちが伝わっていないだけだと。

安田

そうそう。私のいた人材業界でも、「偏差値が10違うと会話が通じない」ってよく言われていたんです。使う言葉も違えば、理解スピードも違う。それってもう仕方のないことで、お医者さんばかりを責めるのはかわいそうな気もするんです。


藤原

仰っている意味はわかります。でも従業員満足度の専門家として言わせていただくと、従業員に気持ちが伝わっていないなら、それは何もしてないのと同じです。「なんで俺の気持ちが伝わらないんだ」と憤っていても意味はない。

安田

う〜ん、じゃあ、どうすればいいんですか?


藤原

また情緒的な表現になってしまいますが、「伝わるまで必死に頑張る」ってことでしょうね。伝えることに本気になる。それはやっぱり、経営者で、かつ知能レベルも高いお医者さんが担うべき責任だと思います。

安田

なるほど。確かにそう言われればその通りかもしれない。


藤原

ただね、現実的にはそういうタイプより、やっぱり「本当は大切に想っていない」というケースの方が多いような気がします。心の底では「なんで俺が従業員にそこまで尽くさなきゃいけないんだ」って思ってる。そこまでじゃないにしても、「給与と休みさえ増やしとけばいいんでしょ?」くらいに考えているお医者さんは大勢いるでしょうね。

安田

ああ、なんだか夫婦の関係を思わせる話ですね(笑)。旦那は「ちゃんと稼いで家に金入れてるんだからいいだろ」と思ってるけど、妻は「お金なんかより、私の悩みを聞いてほしいのに」と思ってるような(笑)。


藤原

確かに構図は似ているのかもしれません(笑)。

安田

でも、実際そういう状況だった場合、藤原さんはどうアドバイスするんです? 自分の頭と腕でここまでやってきたお医者さんが、ちょっと指摘されたくらいで変わるとも思えないんですけど。


藤原

彼らは医師である以前に経営者ですから。「そうは言っても先生、クリニックを成長させていきたいでしょ?」という切り口で話をしますね。

安田

ああ、なるほど。単に「変わらなきゃダメですよ」とお説教をするんじゃなく、ビジネス的な視点で話を進めると。


藤原

そういうことです。「先生、利益もっと出したいですよね」「そのためには従業員に動いてもらわなきゃいけませんよね」「じゃあ、従業員がイヤイヤ50%の力で働いたときと、職場に満足して100%の力で働いたときと、どっちが効果出そうですか?」と。

安田

なるほど! 満足させたほうが「ビジネス的にも得」だと言うわけですね。


藤原

まさにそういうことです。そしてこれは嘘でも建前でもなく、紛れもない事実ですから。金銭面の改善だけじゃなく、冒頭に出ていた人手不足の問題まで一気に解決できるかもしれない。

安田

確かに。逆に言えば、イヤイヤ50%で働く従業員を放置している限り、売上も利益も下がり続け、人手不足の問題も解決どころか悪化していく一方だと。経営者脳で考えれば、「従業員満足を上げたほうが絶対にいい」という結論になりますね。


藤原

そういうことです。上記のような伝え方をすると、お医者さん側もエンジンがかかってきます。「そういうことならいっちょ頑張ってみるか」と、やる気のスイッチが入る。

安田

なるほどなぁ。それで実際、コミュニケーションが改善されたり、定着率が上がっていくわけですか?


藤原

そうですね。そのキッカケにはなると思います。ただ、これがまた難しいところなんですが、お医者さん自身が従業員満足を「手段」だと考えているうちはなかなかうまくいかないんです。

安田

ん? どういうことですか?


藤原

つまり従業員満足っていうのは、本来はそれ自体が「目的」のはずなんです。それを業績アップのための、あるいは人員確保のための「手段」として考えていると、その気持ちはどうしても透けて見えてしまう。

安田

ははぁ、なるほど。従業員側も「結局はぜんぶ経営者のためじゃないか。そんなのに付き合ってられない」となってしまうわけですね。


藤原

仰るとおりです。だからこそ、冒頭お伝えした「オーナー医師がスタッフをどれだけ大切に想えるか」がすべてなんです。心から、本気で社員を大切だと思えたら、彼らの満足度を上げることは「手段」ではなく「目的」になるでしょう?

安田

確かに。ここまでお話をうかがった上で再度お聞きすると、重みがありますね。


藤原

ええ。そしてそれは結局、お医者さん自身が気づいていく他ない。私はあくまでそのキッカケを与えるだけです。もちろん、キッカケがなかったら変わることもできないわけですから、重要な役割であると自負はしていますけれど。

安田

仰るとおりですね。いや、藤原さんの考える従業員満足というものが少しずつつわかってきました。引き続きいろいろ教えてください!

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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