♯178「ナルキッソス研究所」~ブランドファーマーズ・スクール第一期生より~

今週は!

先日、一期生による卒業後はじめての集まり「カイワイミーティング」をオンラインで開催した。ボクはコロナで臥せっていたので、耳だけ参加であったが、8名のビジネスの近況をお聞きすることができた。

今回ご紹介するのは、このミーティングにも参加してくれた佐藤嘉紀(32歳)さん。ヨシノリさん(土曜日クラスでの呼び名をここでも使用させていただく)は、創業からおよそ90年を数える真空機器メーカーの四代目。曾祖父の代からの家業を継ぐことを子どもの頃から既定路線として受け入れているものの、そんな家業に対する使命とは別に、佐藤嘉紀個人としてどんなビジネスができるか。漠然とした想いを抱いていたなかでスクールのことを知り、「さあ、何屋さんになろうか?」というコンセプトが、まさに自分へのメッセージと思って入学してくれた。

ヨシノリさんの家は、家族全員が美術や音楽を愛する芸術一家。本人も美大の彫刻科出身である。自習生の生い立ちや好き嫌いを紐解いていくスクール前半の講座で、ヨシノリさんは自分が物事を判断する際の基準となっているのが「カッコイイかどうか」だということに改めて気がついた。たとえば、ヨシノリさんが憧れる経営者のひとりとして紹介してくれたジェームズ・ワット(スコットランドのクラフトビールメーカー『ブリュードック(Brew Dog)』の創業者)。恥ずかしながらボクはその名前もブランドも全く知らなかったのであるが、ヨシノリさん世代がカッコイイと思う経営者像は一昔前のそれとは明らかに違っている。

このようにカッコイイについて深考していくうち、自分のやりたいビジネスは、同じような価値観を持った若い世代の経営者たちが自由に集い、語らい、美意識を高めていけるような場づくりであることにフォーカスしていったのである。

-タグライン-
経営に美意識を。

-ネーミング-
ナルキッソス研究所

-コンセプト案-

自惚れろ経営者たち。

前時代的な経営者のステータスは我々の心を躍らせるのか。我々は美しいに飢え、格好良いに恍惚とし、その憧れに自身を近付けることで胸を高鳴らせる。

経営者が持つべきは美意識であり、それを核として自社の製品やサービスを磨き高め、製造する者、販売する者、使用する者それぞれに同様の愛着を生む。

ナルキッソス研究所では、美意識を高めることに喜びを感じる次世代の経営者が集い、自社の事業とは本来距離のある活動を行うことで、その経験から得たエネルギーを自社の経営に還元することを目的としている。

ナルキッソスとはギリシャ神話に登場する美青年の名前である。彼は水面に映った自分に心を奪われるが、実らぬ思いに憔悴し、命を落とした。その場所にはやがて一輪の水仙の花が咲く。

水仙の花言葉は「自惚れ」。自惚れは一般的に自分の能力に対する過信として表現されるが、我々には自身を高める原動力のように映る。

志を同じくする者が集い、情熱を持って馬鹿を行う過程を共にする。この活動が自惚れを研ぎ澄まし、いずれそれぞれの事業に相乗効果をもたらすだろう。この世界に格好良い会社が増えていくことを信じてやまない。

 

まさに設立趣意書と呼ぶにふさわしい文章である。ちなみにナルキッソス研究所というネーミングは、ボクが担当する講座に入る前に、すでに完成していたものだ。アイデアが直感と結びついてビジョンが生まれ、その導きによって自然に降りてきたものだろう。

コロナ禍でも明らかになった通り、前時代的な考え方や仕組みが根強く残っているこの国では、ナルキッソス研究所が掲げるコンセプトに共感する若い経営者はとても多いのではないだろうか。しかし、語るは易し、行うは難しである。ヨシノリさんは、果たしてどこから揺さぶりをかけていくのだろう。興味は尽きない。

現在、世界で最も価値あるビールブランドの1つとして支持される『ブリュードッグ』は、2007年、創業者のジェームズと学生時代の友人マーティン、そして一匹の犬から始まった。まずは小さくともなにか一つをかたちにし、信頼できる仲間を一人ひとり増やしていって欲しい。

 

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