約五分後、肉の焼けるうまい匂いを漂わせながら、茂木と社長が出てきた。茂木の手には、2枚の皿。
「お待たせしました」
茂木はそう言って、俺たちの前に皿を置く。楕円形の白い皿に、2つの大振りなバーガーが乗っている。
「どっちを誰が作ったのかは、秘密にしといてくださいね」
保科が言って、茂木が頷く。
「わかってます。フェアに判断してください」
保科が頷き返し、片方のバーガーに手を伸ばした。
「ほら、あんたはそっちから」
促されて俺も残った方のバーガーを手に取った。
あたたかいバンズ、肉汁のしたたるパティ。昼が近いこともあって、腹は減っていた。躊躇なく鼻を刺激するそのうまそうな匂いに誘われ、思わずほおばった。
口の中に旨味が広がって思わず唸った。全国チェーンのバーガーとは明らかに違う食べごたえ。
「うまい……これ、うまいっすよ」
「じゃ、交換」
保科にそう言われ、俺たちはバーガーを交換した。そして再度ほおばる。
……
……
衝撃を受けた。
明らかに違った。
先ほどのバーガーとは、レベルが違っていた。
やわらかいのに歯ごたえのあるバンズ、香りの強さ、滴る肉汁、挟まれているレタスの一枚にすら、強烈な旨みを感じる。
先程のものも確かにうまかったが、こちらの方がずっと重層的な味がする。口の中で味が複雑に展開し、強烈な刺激を感じさせてくれる。
「……何だ……これ……」
思わず言うと、保科が俺の肩を叩き、「決まりだな」と言った。そして俺の手の中にあるバーガーを指さし、「こっちの勝ちです」と言う。
すると、茂木の顔がふっと緩んだ。嬉しそうに頷いて、「ちょっといいですか」と俺の持っているバーガーを指差す。
「自分も確かめていいですか」
その表情と言葉で、勝ったのは茂木の作だったのか、と思った。茂木はその大きな手でしっかり掴んだバーガーを、巨体に似つかわしい豪快な大口で一気に齧る。目を閉じゆっくりと咀嚼してから、ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ。
目を開けた茂木はいよいよ嬉しそうな顔になった。そして、言った。
(SCENE:019につづく)
児玉 達郎|Tatsuro Kodama
ROU KODAMAこと児玉達郎。愛知県出身。2004年、リクルート系の広告代理店に入社し、主に求人広告の制作マンとしてキャリアをスタート。デザイナーはデザイン専門、ライターはライティング専門、という「分業制」が当たり前の広告業界の中、取材・撮影・企画・デザイン・ライティングまですべて一人で行うという特殊な環境で10数年勤務。求人広告をメインに、Webサイト、パンフレット、名刺、ロゴデザインなど幅広いクリエイティブを担当する。2017年フリーランス『Rou’s』としての活動を開始(サイト)。企業サイトデザイン、採用コンサルティング、飲食店メニューデザイン、Webエントリ執筆などに節操なく首を突っ込み、「パンチのきいた新人」(安田佳生さん談)としてBFIにも参画。以降は事業ネーミングやブランディング、オウンドメディア構築などにも積極的に関わるように。酒好き、音楽好き、極真空手茶帯。サイケデリックトランスDJ KOTONOHA、インディーズ小説家 児玉郎/ROU KODAMAとしても活動中(2016年、『輪廻の月』で横溝正史ミステリ大賞最終審査ノミネート)。
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