これからの採用が学べる小説『HR』:連載第12回(SCENE: 019)【第2話 エピローグ】

HR  第2話『ギンガムチェックの神様』執筆:ROU KODAMA

この小説について
広告業界のHR畑(求人事業)で勤務する若き営業マン村本。自分を「やり手」と信じて疑わない彼の葛藤と成長を描く連載小説です。突然言い渡される異動辞令、その行き先「HR特別室」で彼を迎えたのは、個性的過ぎるメンバーたちだった。彼はここで一体何に気付き、何を学ぶのか……。これまでの投稿はコチラをご覧ください。

 


 SCENE:019


 

 

週の明けた月曜、朝7時半。
老齢の化物にも見える新橋駅舎から、サラリーマンたちが吐き出される。月曜だ、今日からまた地獄の日々が5日間も続く、その顔は無言でそう言っている。いや、彼らはもはやそんな絶望にすら慣れてしまっているように見える。SL広場で偶然行き会った知り合いと笑顔で会釈し合い、視線の離れた次の瞬間には真顔に戻る。まるで、ロボットのような無表情。パンパンにふくらんだ営業バッグに引きづられるように、無数の飲食店とオフィスがキメラ的に融合した、雑多な街へと吸い込まれていく。
HR特別室に向かう俺の足は当然、重かった。
鬼頭部長から突然、HR特別室での研修を言い渡されたのが先週の木曜。明くる日の金曜から、俺はあの奇妙な部署で「研修」を受けることになった。
オフィスのソファでいびきをかく室長、大企業の社長をエロオヤジ呼ばわりするおばさん。そして、キャップにロン毛という格好で客先に赴き、商談相手の社長に向かって躊躇なく「バカ」と言い放つイカれた制作マン。
休日である土日を俺は落ち着かない気分で過ごした。予定を入れる気にもならず、普段なら絶対にやらないスマホゲームをやって過ごした。
俺はよくわからない葛藤に苦しめられていた。原因はわかっている。HR特別室だ。クーティーズバーガーで見たあの「商談」、そしてHR特別室に戻っての「取材」、再度店に戻って開催された「バーガー対決」、さらには、その後に改めて行われた「求人広告の打ち合わせ」。
たった一日、いや、ほんの数時間の中で目の当たりにした一連の出来事を、俺自身、どう捉えていいかわからずにいた。
SL広場を横目に烏森方面に向かう。やがて、ニュー新橋ビルの角に作られた宝くじ売り場で、このド平日にスウェット上下という格好をしたオヤジがクジを買っているのが目に入った。どうみても社会不適合者。もしかしたらホームレスなのかもしれない。だが、そんな相手にさえ、店員の女性は満面の笑みでクジを渡す。
あの店員は、本当にあの仕事がしたくてあそこにいるんだろうか。
ふと、そんなことを思った。あの人は、どうしてあの仕事をしようと思ったのだろう。やりがいを感じているのだろうか。あんな薄汚い客に対して、なぜそんな笑顔を向けられるのか。
……なんだよ。何を考えてる。
俺は自分にツッコミを入れる。たった一日、頭のおかしい制作マンに同行し、頭のおかしい商談を見せられただけだ。だいたい、保科があのあと社長から取った契約は、たった12万円だ。Webの社員向け求人媒体に、2週間の掲載。そんな新人1年目のような受注に、どれだけの価値があるというのか。
一週間経ったら、俺はまたAAの営業一部に戻る。そして今までのように、大手企業を担当し、何百万もの規模の提案を行う。
営業は、売ってナンボの職業だ。より大きな額の契約をとって、会社に貢献する。それが評価されて、給与は上がり、昇格もする。それが当たり前の世界だ。
ーーその会社のことを一生懸命考えて、一番いいと思うプランを本気で提案するのさーー
先週、同期の島田に言われた言葉が頭をよぎった。ふっ、と鼻から笑い声が漏れた。偉そうに言うあいつも、小さな町工場に300万円以上の求人費を出させて喜んでるんじゃねえか。何が本気の提案だ。結局、俺と同じじゃねえか。営業は儲けた人間の勝ちだ。カッコつけてんじゃねえよ。

感想・著者への質問はこちらから