「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第5回 「OSを変えることはできない」
前回「新しい通貨と日本の教育」では、人気が通貨の指標になると暮らしは豊かになるとの展望と、時代に合わなくなってきた日本の教育について語り合いました。
会社って、この先どうなると思いますか?
会社ですか?大企業は、ほぼ人工知能くんが中心。規模はでかいままで、人がすごく減ると思います。
大きいままで、生き残れますか?
はい。大量生産しないといけない「物やサービス」って、なくならないですよね?
それは、なくならないでしょうね。
そういう意味では、大企業は存在しないといけない。でもロボットとAIの登場で、働く人は激減する。
末端の仕事は、人間がやるよりも機械がやったほうが「早くて確実」ですもんね。
指示を出す役割も「人間の中途半端な上司」よりAIがやったほうが、間違いなく的確になります。
大企業のように「同じものを大量に作らなければならない事業」の場合は、なおさらですよね。
はい、その通り。
そうなったら、日本の教育って「ズレて来る」と思いませんか?
もうすでに、ズレてますけど。
そうですよね。今の教育のゴールって「大企業で必要とされて、活躍する人材」になることですもんね。
そうです。「言われたことを、着実にこなす人材」=「エリート」という図式だったので。
でもそういう人材は、大企業では要らなくなっていくわけですよね?
必要ない。AIとロボットが取って代わる。
大企業が雇わなくなったら、どうしたらいいんですか?そういう人たちは。
行くところがなくなりますね。
大企業って儲かったお金を、どんどん貯め込んでるじゃないですか。
はい。
あれは「リストラするための資金だ」と言う人がいるんですけど。どう思います?
その通りでしょうね。
では、大企業はこの先、採用もしなくなりますか?
ものすごくクリエイティブな人材は、人工知能をつくっていくために採用すると思います。
それ以外は?
定形的な仕事や「言われたことを、きちっとこなします」という人は、採用しなくなるでしょうね。
なるほど。でも、そうなったら、良いこともありませんか?
良いことですか?
はい。働く場所が減るのは困るんですけど。人件費が大幅に減れば、大企業が提供する商材が劇的に安くなりますよね?
それは間違いなく、安くなります。でないと競争に勝てないので。
そうですよね?たとえばカラーテレビなんかも劇的に安くなる。ユニクロのジーパンや吉野家の牛丼も、もっともっと安くなる。
そうなりますね。
じゃあ、そんなに働かなくても、贅沢しなければ余裕で生きていける。
100円ショップにすごい商品がいっぱい並びますよ。今でも凄いですけどね。「これが100円!」って。
ですよね。個人的には大企業って「市役所」みたいになる気がするんです。
市役所ですか?
はい。ないと困るものを安く提供する。電力会社や水道会社みたいな、公共の事業に近づいていく。
たとえば製薬業界も、新薬の割合が減って来てるんですよ。これからは、単価の安い薬が世の中にどんどん普及していきます。
そうなりますよね。「大量に人間が死んでいた病気」は減ってきてますもんね。
そうなんですよ。だから「生きるためのコストが下がる」というのは正しい。
では大企業は「劇的に人が減って、必需品を安く作り続けて」生き残っていく?
寡占化されるでしょうが、絶対になくなることはないですね。
株主や経営者は儲かるんじゃないですか?人件費が激減するので。
残った会社は儲かりますね。ただし「世界レベルの競争」で勝ち残らないといけませんけど。
なるほど。それも厳しい道ですね。小さい会社はどうなりますか?
大企業の下請けやっていたら、厳しいですね。
人が要らなくなるのと同じように、下請けも要らなくなりますよね?
「そこに頼まないと誰も作れない」という会社以外は要らなくなりますね。
「めちゃくちゃ美味しいパンをつくっている」小さなパン屋さんとか、どうですか?
そういう業態の未来は明るいでしょうね。
でも、たとえ売上100億あっても、単なる大手の下請け会社は不安だと?
大手の下請けに限らず、公共の下請けもかなり不安ですね。
公共工事とかですか?
たとえば今「給食をつくっている会社」が、どんどん倒産していっています。
そうなんですか?
子どもが減って、給食費も少なくなるじゃないですか。そのうえ、子どもたちから「美味しくない」とか言われたりして。
でも「給食をつくる会社」って、なくなったら困りますよね?
なくなったら困るんですけど、普通にやってたら成り立たないんですよ。
儲からないってことですか?
儲からないし、お金がないから人も採用できない。子供が喜ぶメニューなんて開発してる余裕もない。
そういう会社って、下請けなんですか?
役所の下請けなんですよ。
役所の下請けでも、普通にやっているだけでは生き残れないと?
はい。子どもたちの食文化を高めるとか、マナーを高めるとか、料理に興味を持ってもらうとか、そういう価値を提供していけるところだけが残る。
大きな会社が儲かれば、それが「社員や下請け企業にも回ってくる」と政治家は言ってますけど。
それを信じている人は、あまりいないんじゃないですか。
にも関わらず、選挙やったら自民党が勝ちますよね?
そうですね。
国民の総意は「変えなくていい」ってことじゃないですか。
結果的には、そういうことになりますね。
官僚さんは東大出身で頭が良いのに、分からないんでしょうか?このままいったら下からつぶれていくということが。
いや、官僚の人たちと話をすると、分かってはいるんですよ。
分かってるのに、なぜ変えないんですか?
変えないのではなく、変えられないんですよ。
変えられない?
はい。アプリケーションは変えられても、OSを変えることは出来ない。経験してないし学習もしてないから。
そうなんですか?
日本の官僚も政治家も、OSのバージョンアップをやったことがないんですよ。やり方もわからない。
学習する機会はないんですか?
企業で行われてる研修も、アプリケーションの研修ばっかりなんですよ。OSを入れ替える研修なんてどこにもない。
なるほど。日産なんかも、自分たちでは出来ないから「ゴーンさんにやってもらった」という感じですもんね。
そうです。しがらみのないゴーンさんが来て、ズバズバっと切っていったわけです。
じゃあ日本国のOSも、バージョンアップするために、オバマさんあたりを連れてくるとか。
ありですね。
50億くらい払って「日本のOSを10年かけて変えてください」とお願いしたらどうでしょう?
それが可能なら、そのほうが早いですね。しがらみがないので。
日本人は空気を読みすぎなんですか?
しがらみの中で生きている民族なんだと思います。安定している時にはいいんですけど、変化するときはしがらみは逆効果。
トップの決断では変えられないということですか?
しがらみが強すぎて変えられない。
忖度していった人たちの中で、最も忖度が上手い人が社長になっていくんでしょうか?
そうなんですよ!
だったら構造的に「大胆なバージョンアップ」は無理ですね。
OS自体を変えることは不可能でしょうね。トップの選び方を変えるしかない。
シャープも台湾人が社長になったら「あっという間」に黒字化しましたからね。
「今までは何だったんだ?」って感じですよ。
ビルの偽装問題なんかも同じですよね?
構造は全く同じです。利益を出さないといけない。でもそのために全体を変えるのではなく、ちょびっとずつ、削って先延ばししていく。
気づいたら、もう無理なところまで来ていると。
そうなんです。最後に一番しわ寄せがくるのが現場です。
現場は分かっているんでしょ?
彼らには選択肢がないんですよ。がんじがらめで動けない。
選択肢がないので、黙ってコストを削り続けてる?
そうです。
じゃあ、かなりの会社がもう限界まできている?
食品産地偽装問題だって、ひとつ出てくると「他もやってました」ってどんどん出てきたじゃないですか?
はい。
そんなかんじで、ある時を境にどっと出てくるんじゃないですか。
…次回第6回へ続く…
場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談
| これまでの取説をピックアップ |
第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。
第2回:「お金が崩壊するとき」
お金の価値が変わると、お金を稼ぐ方法、稼ぎたい理由も変わってきます。