変と不変の取説 第69回「我慢はいずれ嫉妬へと変わる?」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第69回「我慢はいずれ嫉妬へと変わる?」

前回、第68回は「変えられないのはなぜ?」

安田

泉さんは相撲とか見ますか?

たまにニュースで見るくらいですね。最近だと炎鵬の特集を見ました。

安田

炎鵬は大人気ですよね。あと小型力士だと石浦も人気があります。

ですね。

安田

実は二人とも白鵬の部屋だって知ってました?

いや、知りませんでした。

安田

白鵬って強いけど「品格がない」って言われるじゃないですか。肘打ちしたり、万歳三唱を促したり。

はい。

安田

そもそも横綱に品格って必要なんですかね?もともとは神事なので「品格が大事」って言われてるんですけど。

格闘技って、やっぱり戦いじゃないですか。肉と肉がぶつかりあって。

安田

はい。

神聖だけど戦いなので、ある程度“荒武者”的なところは残しておく必要があると思う。

安田

ということは、あんまり行儀がいいだけじゃだめってこと?

はい。前回の「必要悪」じゃないですけど、横綱は儀式や作法がわかった上で、荒いところがあるほうがバランスがいい。

安田

白鵬は横綱として「非常にお行儀が悪い」って言われるんですけど。私にはそんなにひどいように見えないんですけど。

私もぜんぜん見えないです。

安田

たしかに日本人が抱いている「理想の横綱」からはちょっとズレてるんでしょうけど。

そう見えるんでしょうね。

安田

でもそんなの「他の国から来てるんだからしょうがないだろう」って思うし、人として見たときにはすごく常識的に見える。

私もそう見えます。

安田

後輩の面倒見もいいし。なんであそこまで目くじらを立てて叩く必要があるのか。

伝統を守って我慢してる人たちがいるから。

安田

我慢してる人たち?

本当はもっと暴れたりアホなことしたいのに、我慢してる人たち。それを自由にやってる人がいたらムカつくわけです。嫉妬するわけです。

安田

じゃあ、白鵬に嫉妬してるってことですか。

そうです。「俺は我慢してるのに、お前なに勝手なことやってんねん」みたいな。

安田

へぇ。なるほど。

我慢してる人ほど嫉妬が強くなるんです。

安田

「強けりゃ何をやってもいいのか」って言われますけど。それほど勝手なことをやってるようにも見えないし。

やってないですよ、ぜんぜん(笑)

安田

そもそも横綱は「勝たないと話にならない」ってのが白鵬にはあると思うんです。「品格はちゃんとしてるけど弱い」っていうんじゃ話にならないし。

相撲の世界って大変みたいです。若乃花は「横綱になったらやっと相撲をやめられる」と思って一生懸命頑張ったって。テレビで言ってました。

安田

そうなんですか!やめたかった?

やめたくて仕方がなかったそうです。伝統とか品格とか求められて、ものすごく息苦しいって。

安田

でも弟の貴乃花は、まさに「相撲道を追究してきた人」って感じですけど。白鵬と対比されて「貴乃花こそが横綱らしい横綱だ」って。

でも、問題いっぱい起こしてますよ(笑)

安田

確かに。そう言われると貴乃花って、万歳三唱はしないけど、バランス感覚は相当ゆがんでるように見えますね。

それは我慢し過ぎたからです。

安田

なるほど。それで歪んじゃったと。

「本当はこうしたい」という自分の欲求を全部抑えつけて、我慢して、ストイックにやりすぎた。

安田

そのひずみが出てますよね、絶対に。

めっちゃ出てますよ。

安田

そう考えたらやっぱ白鵬って、バランスがいいように見える。

そうですね。

安田

ということは「横綱には品格はいらない」ってわけじゃなく、「求めるものが違うんじゃないの」ってことですか?

そうです。儀式の中でしっかりと四股を踏むとか、神社で奉納するときの美しさとか、そういうのはすごくしっかりしてる。

安田

確かに。見ていて美しいです。

相撲道のいちばんの極意を、ちゃんとロールモデルとしてやりながら後輩に伝承する。そこさえしっかりしてたらプライベートは自由でいいと思う。

安田

たとえばピアスするとかはどうですか?

相撲やるときだけ外したらいい。

安田

普段はしててもいい?

ぜんぜんいいんじゃないですか。

安田

タトゥーはだめですよね、さすがに。

シール貼るとか(笑)

安田

反則技はどうですか?

え?反則技ですか。

安田

白鵬の場合「エルボーは反則じゃないか」って言われてるんですけど。

だったら負けにしたらいいじゃないですか。

安田

いや、ルール的には反則ではないので。負けにはできない。

ルール違反じゃないのに反則ってのがよくわからない。

安田

識者の話を聞くと「反則じゃないんだけども、横綱たる者は堂々と受けて勝たなきゃいかん」みたいな。

そういうところがおかしいんですよ。

安田

ですよね。ちっちゃい力士がぴょんと飛んだりすると、みんな拍手喝采するわけで。横綱になったらいきなり技を制限されるって、おかしな話ですよ。

それを品格だと思ってるんですよ。「横綱たる者、正々堂々と」みたいな価値観と、品格うんぬんがごちゃ混ぜになってる。

安田

相撲協会の理事やってる人たちも、ちゃんと品格を守ってきたんですかね。「自分たちも守ってたんだから」ってことなんでしょうか。

我慢はしてきたんじゃないですか。品格を守ったかどうかはわかりませんけど。

安田

外国人っていうのもあるんでしょうか。日本人だったとしても同じこと言われるんですかね、白鵬は。

新しい感性を持った人が出てくると「お作法がわかってない」「うちのビジネスの常識がわからんやつだ」って話が出てくるんです。

安田

なるほど。そこは普通の企業と同じですね。

企業ではそういう「新しい感性の人たち」は、どんどん腐ってやめていきます。

安田

白鵬がやめちゃったら大変だと思うんですけどね。

1回痛い目を見ないとわからないんですよ。まだ相撲は人気があるので。

安田

今の相撲人気って、白鵬が支えてきた部分も大きいと思いますけど。白鵬がいないと上位がみんな負けて「なんじゃこりゃ」みたいな場所になる。

「品格を守れ守れ」って言ってたら「相撲人気がなくなった」ってことになるんじゃないですか。

安田

なるほど。じゃあ1回とことん落ちたほうがいいと。

とことん落ちましょう(笑)


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


| 第1回目の取説はこちら |
第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

感想・著者への質問はこちらから