変と不変の取説 第79回「お金と欲しいの関係」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第79回「お金と欲しいの関係」

前回、第78回は「人口をコントロールするもの」

安田

北欧のような先進国は「必要以上に持たない、欲しがらない」という方向ですね。

彼らは完全にそちらに振り切ってます。

安田

「家の中に余計なものがないほうが快適」ってのは私自身も実感してます。

わかります。

安田

だんだん「欲しいもの」とかなくなってきません?

もうほとんど物欲はないですね。

安田

ですよね。毎日トロばっかり食べてもしょうがないし。

(笑)結局のところ麦飯と納豆がおいしかったりするんですよ。

安田

そうなってくると、あんまりお金稼ぐ必要がなくなってきます。

だからそういう人が増えてますよ。とくに若い人たちは。

安田

でも大金持ちって、みんながお金を欲しがるからその頂点として君臨していけるわけでしょ。

その通りですね。みんなが欲しがらなくなったらお金の価値は暴落します。

安田

ですよね。じゃあそうなったら、お金持ちの地位や影響力ってどうなるんですか?

自然に減っていくでしょうね。

安田

自然に減っていく?

昔は新製品が出たときのムーブメントがあったじゃないですか。「新製品出ました!」「ワー」って、みんなが欲しがる。

安田

ありましたね。

でも今はないでしょ。

安田

ないですね。

新製品が出ることに、あんまりみんな期待してないし求めてない。だからそれによって稼ぐ人も減ってくるってこと。

安田

新商品とお金持ちの関係ですね。

よく似てますよ。どんどん新商品が生まれた頃は、どんどんお金持ちも増えてた。それが自然に減っていく。

安田

お金持ちって、つまり「権利保持者」だと思うんですよ。自分で掃除をしなくても、お金を払って誰かに「掃除をやらせる権利」を持ってる人。

そういう見方もできますね。

安田

でもみんなが「お金」を欲しがらなくなると、その権利を行使できなくなる。

それはマルクスが言ってることです。

安田

え!そうなんですか。

マルクスは「空資本」と言ってます。「資本主義の資本は“空”である」と。銀行に預けたら勝手に増えるので。

安田

あれって不思議ですよね。

金本位制じゃなくなった瞬間から、貨幣が勝手に動いて増えているので。もはや実体経済ではなくなる。あれは空虚なるもので必ず恐慌が起こると。

安田

お金がお金を生み出すって、どう考えても変ですよね。食べ物は増えないのに。

かなり変ですよ。

安田

お金を持ってる人は「持ってること」によってさらに豊かになっていく。持ってない人は更に貧乏になっていく。

そのとおり。

安田

なぜ持ってない人たちは黙って言うことを聞くんでしょうか。安い給料で家政婦とかやらなきゃいいのに。

そういう仕組みになっているからです。そこに疑問も感じなくなってるし。

安田

それを受け入れるから、どんどん貧富の差が広がるんですよ。

資本主義というのは元々「非常に苦しい労働者」と「お金を動かしてるだけの人」との差が激しかったんです。

安田

もともと?

はい。資本がないと物が作れないので。

安田

なるほど。

でもそれが進むと、だんだん苦しい労働がなくなってくる。

安田

なくなるんですか?苦しい労働が。

人工知能やロボットがやってくれるようになるので。

安田

なるほど。

ただそうなってくると、お金に対する価値がグワーッと下がってくる。

安田

それはどうして?

「お金が欲しい」イコール「苦しい労働から解放されたい」ってことなので。

安田

なるほど。確かにそうですね。

昔に比べると今の労働者は結構満たされてるんですよ。

安田

食べる物も着る物もめちゃくちゃ安いし。空き家もいっぱいあるし。確かに生きていくのにあんまりコストがかからなくなってきてる。

お金がなくても、まあまあ快適に生きていけるじゃないですか。

安田

そうですね。じゃあ、そうなるとお金持ちには変化が起きるんですか?

みんながそんなに憧れなくなっていく。なりたい人が減っていく。

安田

減りますか?

「日々、自分がおもろいことに没頭してるほうがええわ」「仲間もおるし」みたいな。お金持ちの周りには変な輩も集まってくるし。

安田

そうかもしれません。私も昔はお金持ちに憧れてましたけど。

憧れてましたか?

安田

はい。「ちょっと今日は香港に飲茶食べに行こう」「自家用ジェットで」みたいなのが、すごくかっこいい気がしてました。

今はどうですか?

安田

今はべつに「新橋の飲茶でいいかな」っていう(笑)

いくらでも美味しい店がありますから。逆に新橋のほうがおいしいかも。

安田

香港まで行くのも面倒くさいし。時間もかかるし、お金もかかるし。

わかります。

安田

昔はそういうものを超えた優越感がありました。「俺ってなんてすごいやつなんだ」っていう。まわりもみんな「すごい!うらやましい」って思ってくれたし。

両方がないと成立しないんですよ。片方だけだと優越感が得られないので。

安田

そうなんですよ。自分も面倒くさいし、まわりもべつにすごいと思ってくれないし。何のために、わざわざ香港まで飲茶食べにいくの??みたいな。

温かい人たちに囲まれたゲストハウス1泊3,000円と、超高級ホテル1泊30万円と、もう同じレベルなんですよ。体験レベルでいくと。

安田

確かにそうですね。

だから30万と3,000円のお金の違いがなくなってくる。

安田

昔は1泊100万のスイートルームに泊まることが夢だったんですけど。今はまったく憧れないですね。

べつにどうってことないですよ。みんなが知ってるホテルの延長線上。

安田

そうなんですよ。無意味に広いだけだし。トイレなんて3つもいらないし。そうなったらダイヤモンドなんかも売れなくなるかもしれません。

優越感レベルでは売れなくなるでしょうね。ブランド物とかも。その世界が好き、本物の職人がつくった物が好き、デザインが好き、という人だけが買っていく。

安田

もはや趣味の世界ですね。盆栽なんかと一緒。でも誰もが欲しいと思うからダイヤモンドって高いわけでしょ?

はい。需給バランスの問題なので。

安田

じゃあ安くなる?それとも売れなくなる?

優越感のためではなく「アートとして欲しい」というニーズは残ると思います。求め方が変わるということ。世界は大きくその方向にシフトしていく。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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