「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第87回「人はウイルスを克服できるのか」
前回、第86回は「国家戦略がないのはなぜ?」
泉さんのコロナ対応について聞きたいんですけど。
はい。何でしょう。
私の場合は「人に迷惑かけちゃいかん」ってことで、マスクをするようになりました。
私もそうですね。自分の安全のためというより。
でもいまは、どちらかというとクレーム対策みたいになってます。
分かります。マスクしないとすごい目で見られますもんね。
マンションのエレベーターにも乗れなかったり。電車でも白い目で見られるし。昔は不審者がマスクをしてたイメージですけど。
逆になりましたよね。最近はマスクしてない人のほうが不審者っていう。
そうなんですよ。でもちょっとやり過ぎじゃないかと思います。
日本人は真面目ですから。
「菌をなくす」ぐらいの勢いで、除菌や殺菌をやりまくってますけど。ここまでやって「大丈夫なの?」って逆に心配になります。
そもそも我々の体の中には「1,400兆の菌がいる」って言われてますから。
それは良い菌ってことですよね。
善玉菌もたくさんいます。
そうですよね。だから殺菌しすぎたら「逆に危ないんじゃないの?」って気がするんですけど。
清潔になりすぎたから「アレルギーが増えた」という説もありますから。
そうなんですか?
はい。じつは不潔な国のほうがアレルギーの子どもが少ない。
とはいえ、ある程度の常識的な殺菌とか、清潔感とかは大事じゃないですか。たとえば泥水を飲んで大丈夫かっていうと、それで病気になる貧しい国もあるわけで。
バランスの問題ですね。
いまは明らかに神経質な人が増えすぎてます。つり革つかめないとか。24時間マスクしてるとか。
神経質な人は前からいましたけど。コロナをきっかけに増えましたね。
最近は国民全員がそっちに向かってるような気がして。
そうですね。外を歩いてる人も9割がたマスクしてますから。
「コロナかかったら死ぬんで、家から出ません」みたいな若い子もいて。「大丈夫かな」って思っちゃうんですけど。やっぱコロナって撲滅するべきなんですか?
これは難題ですよ。
難題ですか。
人間はウイルスを経験しながら進化してきた歴史があるので。人間の細胞全部にミトコンドリアという寄生が入ってるように、人類の進化に必要な気がします。
「ウイルスがないと進化が起こらない」って言われてますもんね。
そうです。ウイルスが突然変異を起こすわけです。
じゃあウイルスを撲滅すると進化が止まる?
外部から何かが侵食してくることで、体が変わっていくので。無菌にすると「衰えていくんじゃないか」って感じがします。
日本中からアルコールや除菌液がなくなるぐらい、みんな消毒しまくってるわけじゃないですか。
しまくってますね。
「日本人は普段から清潔にしてるから、コロナで死ぬ人が少ない」とか言ってる人もいて。どっちが正解なのかわからないんですけど。
程度の問題ですよ。
そうですよね。考えてみたら納豆やチーズも腐ってるわけで。
人間も生物である以上、それを受け入れて生きていくしかないんですよ。
じつは私、人間ドックが好きじゃないんです。「あらかじめ検査して予防しとけば病気にならない」という考えにすごく違和感があって。
私も10年ぐらい人間ドック行ってないですね(笑)
たとえばBARやお寿司屋さんで「隣の席と2メートル離す」ってなると、もはやカウンターの魅力がなくなります。
そうですね。スウェーデンみたいに集団免疫をめざして「ゆっくりと浸透させていきましょう」という作戦もあると思うんですけど。それのほうが自然でしょうし。
日本でそんなこと言ったら大パニックになります。
いまでも我々は風邪をひくじゃないですか。
はい。
昔の人にとってはそれが新コロナで、いっぱい人が死んでた。だけど、それを乗り越えてきたので、ちょっと微熱が出るぐらいでおさまるように進化したわけです。
それが自然なんですね。
ちょっとずつ体験して、だんだん進化していく。それが自然。
たとえば新コロナを完全に撲滅できても、“新新コロナ”がまた出てくるわけで。
たぶん永久に出てきますよ。すべてのウイルスを地球上からなくさない限り。
でも、すべてのウイルスを地球上から抹殺してしまったら、人間も死んじゃう気がします。自殺行為じゃないですか。
そうですね。地球上でこういうのが起こるのは、必要だからだと思います。地球全体でいくと最適解なのかなって。
お亡くなりになった人の家族は、怒るかもしれないですけど。全体の10%が死んじゃって、90%の生き残る人がいて、その子孫に遺伝子が残って進化していく。
はい。それが生物の進化の歴史です。
自然淘汰が起こらなくなると、逆に生物として滅んでいきそう。
野生の動物だったら、強いオスの子どもが自然に残っていきます。
でも人間って、強い弱いじゃなく「みんな公平に“つがい”になる」のが正しいとされてる。本来だったら残らないような人の子孫もどんどん増えていく。
生物界の常識でいくと、どんどん質が落ちていく可能性があります。
自然の摂理に反してると。
鳥インフルエンザとか豚インフルエンザとかも、家畜が増えすぎて「自然の淘汰システム」が働いてるんじゃないですか。
なるほど。自然の摂理の逆襲ですね。
人間も増えすぎたので、淘汰システムが働いて「コロナが流行ってる」というふうにも考えられます。
自然環境を守ろうとか言いながら、いちばん不自然な生き物ですからね。人間は。
はい。
じゃあこれを克服しちゃうとどうなるんですか。自然の摂理に勝ってしまうとしたら。
何をもって勝ったというかですよね。自然淘汰が定期的に起こるのが正常な状態かもしれないので。
じゃあコロナに打ち勝つことが逆に負けにつながるというか。
死なないようにしたがために、逆に「生物として弱くなっていく」というのはあり得ます。
「何やってんだ」って話ですね。
ちょっとしたことで大病になったり。弱っちくなっていく可能性は大いにあります。
いろんなウイルスや細菌を克服した後で、ものすごい細菌が現れるとか。
自然淘汰の流れからすればそうなりますね。
人類の99パーセントぐらいが、一瞬にして死んでしまうようなウイルス。
それによって人類のほとんどが死んでしまうとか。大いにあり得ますね。