第35回「商品は変えずに売上50%UP。知財を使ったその方法とは?」

このコラムについて
世の中の情報は99%が「現在」または「過去」のものでしょう。たった1%の未来情報をつかめる人だけが、自分のキャリアやビジネスを輝かせるのです。でも、未来情報なんか手に入らないよ!と思ったアナタ。ご安心を。もしアナタが古い体質の会社に勤めているなら超ラッキー。そんな会社の経営者ならビジネスがハネるかも。

未来コンパスが、あなたの知らない未来を指し示します。

 35  「商品は変えずに売上50%UP。知財を使ったその方法とは?」

他社と差別化できる新商品を開発しなければとお悩みの経営者の皆さん。
実は、無理に商品を刷新しなくとも、売上UPを達成しているケースがありますよ!


商標登録第6319792号(商標権者:タイガー魔法瓶株式会社)
【商標】6SAFE+
【指定商品】電気式ケトル など


タイガーの電気ケトル「6SAFE+」が売れています。発売された2020年10月の出荷数は、前年同月比50%アップ、それ以降も40%近い伸びが続いているとのことです。

未来コンパスが指すミライ

実はこの商品、タイガーがそれ以前に販売していた電気ケトル「わく子」と中身は同じです。

45秒でお湯が沸く「スピード沸騰機能」や 湯気が出にくい「蒸気レス設計」をはじめとする「6SAFE+」の各種機能は、「わく子」にも備わっており、製品デザインも同じです。

<わく子>

<6SAFE+>

 

では、なぜ同じ機能、同じデザインなのに、出荷数が50%もアップしたのでしょうか。商品そのものを変更せずに、売上をあげることなど出来るのでしょうか。

それを可能にしたのは、消費者に訴求する「商品コンセプト」の変更です。商品コンセプトとは、消費者に打ち出す商品の切り口(特長)のことです。

前モデルの「わく子」は、「沸騰速度」という性能をコンセプトの中心に据え、「飲みたいときにサッと沸く」をキャッチコピーとしていました。わく子の沸騰速度は業界最速(45秒)で、正にその点を訴求するための商品名が「わく子」でした。

わく子の沸騰速度は業界トップではあるものの、競合との違いは10秒程度。消費者がメリットを感じるほどの差では無いかもしれません。また、沸騰速度は、数値化できる分かりやすい指標であるが故、各社がしのぎを削り、その点をアピールするのはレッドオーシャンへの道を進んでいる様にも見えました。

そこで、タイガーはコンセプトを「安全・安心」に変更します。キャチコピーは「安全最優先のタイガーケトル」。「誰かを思う時、選んでほしい」というサブコピーを子供の写真と共にのせて、小さな子供をもつ家庭に訴えました。
「6SAFE+」という商品名は、ケトルが搭載する6つの安全性能を端的に表しています。安全性の検証に特化しているCMはコミカルで、つい見てしまいますね。
https://www.tiger.jp/feature/kettle/

このように、商品を変えずに大幅な売上増が達成されることがあります。
それは、消費者に届けきれていない商品の良さを明確にし、それをキャッチコピーにし、最終的には商品名にまで凝縮することで可能になります。商品名とは、商品の良さを「消費者に響く言葉」に変換したものだからです。
タイガーは、それを商標権で保護しました。商標というと単に名称の使用権と思われがちですが、会社が時間と予算を使って考えた「消費者に響く言葉」を独占するツールです。
コンセプト→ネーミング→商標権の取得という流れで、まだ誰も手を付けていない未来のマーケットを見つけ出し、確保することが可能となるのです。

 


 この記事を書いた人  

八重田 貴司(やえだ たかし)

外資系企業/法務・知財管掌。弁理士。
会社での業務とは別に、中小・ベンチャー企業への知財サポートをライフワークとする。クライアント企業が気づいていない知的財産を最大化させ、上場時の株価を上げたり、高値で会社売却M&Aをしたりと言った”知財を使って会社を跳ねさせること”を目指す。
仕事としても個人としても新しいビジネスに興味があり、尖ったビジネスモデルを見聞きするのが好き。

面白いビジネスを見つけたら是非シェアしてください。フォロー・友達申請大歓迎です!
Twitter
https://twitter.com/takashi_yaeda
Facebook
https://www.facebook.com/takashi.yaeda

 

感想・著者への質問はこちらから