「面白いビジネスが死ぬとき」さよなら採用ビジネス 第128回

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第127回「知的付加価値ビジネスの変貌」

 第128回「面白いビジネスが死ぬとき」 


安田

東急ハンズの業績がかなり悪いそうです。

石塚

はい。知ってます。

安田

東急ハンズが好きで昔はよく行ったんですけど。言われてみれば最近ぜんぜん行かないなって感じで。

石塚

安田さん、いつから行かなくなりました?

安田

もうかれこれ10年は行ってないです。

石塚

なるほど。

安田

これもネットの影響でしょうか。

石塚

東急ハンズってそもそも、ある会社の新規事業で生まれた会社なんです。その「ある会社」ってどこかご存じですか?

安田

いや、知りません。

石塚

東急不動産です。

安田

へえ。そうなんですか。

石塚

安田さんがよく行ってたのって渋谷店ですか?

安田

当時は関西に住んでましたので梅田店ですね。東京だったら豊洲です。

石塚

豊洲はまだ新しいですね。

安田

かなり昔に池袋店は行ったことがあります。

石塚

池袋はいい店でしたね。

安田

“でした”?

石塚

楽しい店でした。過去形だけど。

安田

「そこにしかない、ちょっと変わったもの」が集まってるイメージでした。

石塚

そうでしたよね。でもマンネリ化しました。

安田

「面白い商品を見つけるのが得意」って人が集まってそうですけど。

石塚

ことの始まりは東急不動産の遊休地物件で、東急不動産の若手社員が「じゃあ、ここで小売業やろうぜ」って始めたビジネス。

安田

へえ。そういう始まりなんですね。

石塚

コンセプトはプロに依頼して「自分たちでオリジナルの商売ができないか?」っていうのがスタート。いわゆる社内ベンチャーですね。みんな若い社員ばっかりで。

安田

当時は勢いがあったんでしょうね。

石塚

そのベースがあるから、東急ハンズは非常に斬新だったんですよ。いわゆる小売業の予定調和を超えて、「こんなのあったら面白いじゃないか」みたいなものを全部詰め込んだ。

安田

うんうん、そんなイメージですよね。

石塚

80年代から90年、まだバブルで小売業に余裕があった頃。「とにかく面白いことだったら何でもやるよ」みたいな感じだったわけです。

安田

確かに余裕を感じましたね。「こんなの誰が買うんだろう」みたいな商品ばっかりで。

石塚

そこが楽しかったんですよ。でも楽しかったのって、せいぜい90年代の半ばまで。

安田

ふらっと立ち寄ってムダな買い物ばかりしてました。

石塚

そうなんです。楽しい時代だった。小売業の楽しい時代。ところがバブルがはじけて変わっちゃった。

安田

何が起こったんですか?

石塚

小売業だから収益率はもともと低いわけです。それを立て直すために東急不動産からどんどん人が来た。

安田

なるほど。

石塚

DIYや雑貨なんてぜんぜん興味のない人が社長や取締役をやって。東急不動産の社員ってみなさん有名大学を出た優秀な人たちだから、Excelの管理になるわけです。

安田

無駄をなくして利益を増やすっていう。

石塚

そうそう。すると昔のように「収益度外視して面白いことやろうよ」みたいなことは御法度になるわけです。

安田

「普通の店」になっていくわけですね。

石塚

おっしゃるとおり。商品開発や仕入れがまったく尖らなくなる。どんどん丸くなっていく。これがひとつの要因。もうひとつは決定的にICT化が遅れたこと。

安田

ICT化?

石塚

つまり在庫管理や商品管理のシステム化。そこが決定的に遅れてしまった。

安田

へえ。そうなんですか。

石塚

勢いのあった時代は、池袋は池袋で発注、渋谷は渋谷で発注、店ごとに勝手バラバラなことをやってたわけですよ。

安田

ドンキホーテみたいですね。

石塚

まさに。それがハマったわけです。「よーし池袋はこんなことやろうぜ」「面白いですね~。やろうやろう」みたいな。

安田

面白そう。

石塚

ところが「そういうのはよくないんじゃないの?」ってことで、中途半端に商品をそろえて中途半端にコスト管理をして、それぞれの持ち味が死んじゃった。

安田

よくある話ですね。

石塚

コストを管理するんだったらシステム化が必須なんですよ。

安田

そんな感じがします。

石塚

ひとつの商品がいつ入荷して、どのタイミングで売れたのか。ポイント・オブ・セールスといわれるPOS管理が基本中の基本だけど、ずっと長い間システム化されなかった。

安田

頭がいい人はそういうシステムが好きそうなのに。

石塚

不動産屋から天下るから、データ分析や商品のつかみ方が非常に雑なんですよ。

安田

元々いた人はどうなったんですか?

石塚

面白い人たちがどんどん辞めていきました。残った人たちは小売のプロでもなければ小売業が楽しいとも思っていない。

安田

悲惨ですね。

石塚

だからシステム化も遅れるし、店ごとの特色もなくなっていく。1円単位でのコスト管理もできないから収益も下がる。もう、すべてがマイナスに行っちゃった感じ。

安田

なるほど。

石塚

それがいまの東急ハンズですね。売上もゆっくり下がってます。

安田

M&Aして売っときゃよかったのに。

石塚

おっしゃるとおり。誰かこういう商売が好きな人がやってくれたほうがよかったです。この間久しぶりに行ったんですけど、一言でいって「お店がつまんない」。ホームセンターに完全に負けてますよ。

安田

そうなんですか!

石塚

珍しい商品だってホームセンターのほうが早かったりする。

安田

まあ、あれだけいろんな分野で、おもちゃから文房具までそろえると、浅くなっちゃいますよね。

石塚

なっちゃいます。

安田

DIYに特化してるほうが、そりゃ品ぞろえは増えますよ。

石塚

でも「DIY」っていう言葉を最初に日本に普及させたのはハンズですよ。

安田

え!そうなんですか?

石塚

そうです。あの「手」のマーク。浜野安宏さんっていう大コンセプターがつくったんです。「手でつくろう。手づくりの楽しさを体感しよう」ってことで「ハンズ」だから。

安田

なるほど〜。

石塚

今はホームセンターとネットで事足りるから。「ハンズ行けば何かある」というバラエティーショップとしての役割は終わっちゃった。

安田

残念ですね。

石塚

そもそも不動産屋と小売業って真逆の考え方だから。

安田

真逆?

石塚

だって100億、1,000億単位でやってる人が、釘一本売って5円とかって。金銭感覚が違いすぎますよ。

安田

確かに。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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