「遊んでいるかのように働きたい」をモットーに、毎日アロハシャツ姿で働く“アロハ美容師”こと岩上巧さん。自身が経営するヘアサロン「mahaloco(マハロコ)」には、岩上さんしか実現できない<ココロオドル髪型>を求め多くのお客様が訪れます。その卓越したビジネスセンスの秘密に、ブランディングの専門家・安田佳生が迫る対談企画です。
第20回 初回カウンセリングの「提案」でリピーターが増える
美容室って、1つのお店に長く通い続ける人と、しょっちゅうお店を変える人がいる気がして。お店側としては当然、リピートしてくれるお客さんの方がありがたいわけでしょう? それともひたすら新規を取っていくほうがいいんですか?
そうですね。新規集客ももちろん大事ですけど、そちらばかりに目を向けていては、顧客の全体数は増えていかないので。実は、新規って毎月10%くらいはある意味自動的に来ると言われているんですね。
特に何も対策を打たなくても、ですか?
そうそう。だから1ヶ月100人のお客様がいたとすると、その内訳は常連90人・新規10人という感じ。で、仮に全員が毎月1回必ず髪を切るとすると、翌月には常連が100人になり、また10人程度の新規が来るわけです。
ふむふむ。そうやって、毎月常連客が増えていくと。そのロジックで行くと、1年もしないうちに常連客は倍増する計算になりますね。
仰るとおりです。理屈で言えば、確実に固定客の人数は増えていく。だけど実態はどうかというと、「ある一定数からは、総顧客数は増えていかない」というのが定説になっていて。
え、そうなんですか? それは常連さんがどんどんいなくなっているのか、新規顧客が定着しないのか。どちらなんでしょう?
おそらく、「どちらも」なんだと思います。流出にしろ定着しないにしろ、僕としては「飽きられた」ことが理由なんだと思っていて。
ほう。それはお店の雰囲気に飽きられてしまうということですか?
それよりも「この美容室に通っていても、何も変わり映えしないな」と思われてしまうというか。というのも今の時代って「お客様のリクエストどおりの髪型を作る」ことが当たり前になっているんですよね。
そうですね。この対談で何度も出てきた話題です。
ええ。ネットで髪型を探して、まるで「モノ」を買うように美容院に行く。「髪型=モノ」だから、飽きたら違う店に行くし、もっと安く売っている店があるならそちらに行く。これってある意味当たり前の現象だなと。
ふーむ、なるほど。岩上さんは、それを防ぐためにも「会話」が重要だということをずっと仰っているわけですもんね。
そうですそうです。たまにウチにもいらっしゃるんですが「前の美容室には長く通っていたんだけど、新しい髪型にしたいって言いづらくて…」と美容室を変えてこられる方もいて。
美容師に髪型の相談ができないって、なんだか変ですけどね(笑)。
本当ですよね(笑)。もっとも、「常連さんに別の髪型の提案はしづらい」という美容師側の心理もわからなくはないんです。長く通っていただいているとメニューもだんだん固定化してしまって、それを大きく変えるのって勇気がいるんですよ。
なるほどなぁ。確かに長く通っていると「いつもの感じで」というオーダーになりがちかもしれない(笑)。一方で、そればかりじゃ変わり映えがせず、やがて飽きていってしまうと。……じゃあいったいどうすればリピーターを増やせるんでしょう?
そこに関しては僕は真逆を行っていて(笑)。施術前にカウンセリングで、どんな髪型がいいかとか、どういう髪の悩みがあるのかとかをお聞きしていくんですが、その時に必ず「新しい提案」をするんです。
新しい提案、ですか。でも先ほどの話にあったように、多くのお客様は「この髪型にしたい」と決めて来店されるんじゃ?
ええ。最初はそのあたりをお聞きするんですが、「わかりました」で終わりにしないんです。「ちなみにこの髪型の他にはどんな髪型に興味がありました?」って質問するんです。
ふむ…その真意は?
この髪型にたどりつくまでに、どんな髪型と比較したり悩んだり断念したりしたのかを探るためですね。
ははぁ、なるほど。「本当はこんな髪型にしたいけど、朝のセットが面倒だと思って断念した」とか「いつもこの部分がハネてしまうから、この髪型は似合わないかなと思った」とか。
仰るとおりで、そういうコミュニケーションの中から、提案のヒントになりそうなエピソードを集めていくというか。その上で「こっちの方が似合うかもしれない、って髪型を思いついちゃったんですが、聞くだけ聞いてみません?」なんて言って(笑)。そうするとほぼ確実に興味を示してくれますね。聞くだけはタダですし(笑)。
おもしろい(笑)。でも確かに、そう言われたら「聞くだけ聞いてみようかな」と思いますよね。
ええ。結果的に「やっぱり最初の髪型にするわ」と言われても、全然OKなんです。こうやって「この美容室は、美容師側から提案してくることが当たり前なんだ」という意識付けをしておくことにこそ意味があると思っていて。
なるほどなぁ。でもなぜ多くの美容師さんは、岩上さんのようなコミュニケーションをとらないんでしょうね。先ほどの話ではないですが、長く通っているのに髪型の相談もできないほどの関係性しか築けないのは、なぜなんでしょうか。
うーん、それは場合によると思いますが、オーナーの考えによるところも大きいと思いますね。お店を単なる「作業場」として位置づけているのか、「社交場の要素もある作業場」と考えているのかで、雰囲気は明らかに変わってきますから。
ああ、確かにそうでしょうね。
ちなみに、多くの美容師さんは「カットなら1人1時間」という目安で施術していると思うんですが。僕は「1人1時間半」取るようにしているんです。30分余裕を持つことで、お客さんと向き合う時間にかなりゆとりができるんです。
それはそうでしょうけど、そのぶん効率が悪くなっちゃいませんか?
いえいえ、そのゆとりがあることで、より細かな課題やニーズがキャッチできるんですよ。結果、よりその人にあった提案ができるようになり、リピーターになっていってくれる。
ははぁ、なるほど。中長期的に見ればむしろ効率がよくなっている。それにそういう美容師さんなら、気軽にお話できる関係が作れそうですもんね。
そうなんですよ。お客様側から「今度、娘の七五三なんです」とか「来月、友達の結婚式があるんだよね」って話が自然にあがってくるようになります。で、それをキッカケにまた別の提案をしていくんですよ。
なるほどなぁ。普段からお客さんとのコミュニケーションを大切にしているからこそ、「提案」ができるし、その提案で満足できたお客さんがまた来店してくれる。それがリピーターを増やしていくカギになるわけですね。
対談している二人
岩上 巧(いわかみ たくみ)
アロハ美容師/頭髪改善特許技術発明者/パーソナルブランディングプロデューサー/株式会社 OHANA 代表
美容専門学校卒業後、都内のサロンに就職するも、オーナーと価値観の違いから大喧嘩し即クビに。出身地である水戸に戻り実家の美容室で勤務しながら技術を磨き、2008年自身のヘアサロン「mahaloco(マハロコ) 」をオープン。結婚式のプロデュースやイベント企画なども行うパーソナルブランディングプロデュースサロンとして人気を博す。2014 年、髪質改善技術「美髪矯正 hauoli®(2021 年特許取得)」を開発。「まるでハワイで暮らしているように」をテーマに、毎日アロハシャツを着、家族・仲間・お客様と共にハワイアンライフを満喫中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。