第32回 「個別最適にこだわる先生が陥りがちな罠」
お医者さん
はあ…病院の運営というのには本当に金がかかるなぁ…。世間的には医者=金持ちだと思われているが、実際はそれほどでもない。
お医者さん
最近は医療機器だけじゃなく、システム関係にもドカドカ設備投資しなければならない状況だ。いくら売上が多くても、経費がそれを上回っていたら赤字なんだよ…。
確かに、先生は頻繁にシステム会社と打ち合わせしてますよね。新しいシステムの導入にも積極的だ。
絹川
お医者さん
…というか、積極的にならざるを得ないんだよ。今や病院もサービス業だ。患者さんに選んでもらうためには、新しいことにもどんどん対応していかないと。
お医者さん
…って、あなたどなたです?
ドクターアバターの絹川です。お医者さんの様々な相談に乗りながら「アバター(分身)」としてお手伝いをしています。
絹川
確かにインターネットやスマホの普及で、患者さんが入手できる情報は飛躍的に多くなりました。まるで飲食店を探すように、病院の特徴やサービスを調べられます。
絹川
お医者さん
ほんとその通り。中でも、さっきもボヤいていたように、とにかくシステム関連の経費がかさむんだ。まあ、何でもかんでもシステム化という世の中だ、仕方がないとは思っているんだけど…
でも、投下資金に対してリターンが少なすぎる、と?
絹川
お医者さん
…まあ、端的に言えばそういうことだね。売上アップにあまり繋がらなかったり、大した効率化にならなかったり…。むしろ、いろんな業者さんとの打ち合わせに時間も取られるし、トータルで考えればマイナスだと思うこともあるよ。
わかります。システム会社って実は得意分野が狭かったりするんですよね。だから先生の抱える課題に対し、「ピンポイント」な提案をしがちです。
絹川
お医者さん
ん? ピンポイントな提案って?
つまり、先生が改善したいと思っている課題があるとしますね。仮にそれを課題①としますが、システム会社は「課題①を解決するにはAという方法がありますよ」という提案をするわけです。
絹川
お医者さん
うん。別におかしいとは思わないけれど。
一方、先生には別の課題もあった。それを課題②としますが、今度は別のシステム会社が「課題②を解決するにはBという方法がありますよ」と提案する。
絹川
お医者さん
うん。システム会社によって対応しているサービスが違うから、そういうケースもあるね。
そして先生は、課題①と課題②の解決をそれぞれ別のシステム会社に頼み、Aという方法と、Bという方法を両方実装した。しかし実は、このAという方法とBという方法が何らかのバッティングを起こすとしたら?
絹川
お医者さん
え? バッティングって?
医療システムというのは、ひとつの大きなシステムです。つまり、課題①と課題②というのは、傍目にはまったく別の、互いに関係のないものに見えて、コード上では重要な繋がりを持っていたりするわけです。
絹川
それを考えないまま、それぞれのシステム会社はAとBという、本来なら同時に行ってはいけない改修を進めてしまった。そして後日、AとBは干渉し合い、当初想定していた効果を出さないどころか、重大なエラーを引き起こしたりする。
絹川
お医者さん
そんな…。それでは本末転倒だ。お金を出して不具合を買ったようなものじゃないか。
もちろん、重大なエラーが次々に起こる可能性はそう高くはないでしょう。ただ、根本的な解決を行わないと、そういった脅威に晒され続けることになるんです。
絹川
お医者さん
根本的な解決? それは一体なんなんだ?
それほど難しいことではありません。先生が行ったような「個別最適化」と並行して、常に「全体最適化」を考えるということです。
絹川
お医者さん
全体最適化…
はい、個別最適を行うにあたって、全体のシステムに対してどのような影響があるかを見る、ということです。先ほどの方法AとBの話のように、もし問題があるようなら個別最適の方法を調整していく。
絹川
お医者さん
ふむ、なるほど。全体を”俯瞰”して見る視点が必要だということか。
仰るとおりです。たとえば業務フローの改善を行う場合も、課題を感じている業務「だけ」のことを考えて最適化すると、その影響が別の業務に出たりします。「流れ」全体を見ながら最適化を行わないと、先生がさっき仰ったように、お金をかけて不具合を買うようなことになってしまう。
絹川
お医者さん
…ちょっと待って。もしかして、私は既にそういう金の使い方をしてきてしまったということか? だから投下資金に対するリターンが少ないと感じているのか?
その可能性は大いにあると思います。個別最適化に集中するあまり、全体最適化が少しおざなりになっていたのかもしれません。
絹川
お医者さん
なるほど…それはなんというか、ショックだな。
いや、それほど落ち込むことはありません。あらためて全体を俯瞰して見て、問題のあるところを調整していけばいいだけです。これまでの投資がすべて無駄になるなんてことはまったくありませんよ。
絹川
お医者さん
…そう? そう言ってもらえると救われるけど…でも、その全体を誰が見るのか、という問題は残るな。
もしよろしければ、私にチェックさせていただけませんか? 多くの病院のシステムを見てきたので、アドバイスできることはたくさんあると思いますよ。
絹川
お医者さん
あ、そうなんだ。じゃあお願いしてみようかな。あなたなら本質的なことをズバズバ言ってくれそうだし。
ありがとうございます!お任せください!
絹川
医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。
著者:ドクターアバター 絹川 裕康
株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。