「医者の仕事がAIに奪われる、は本当か」〜お医者さんは、なやんでる。 第90回〜

第91回 「医者の仕事がAIに奪われる、は本当か」

お医者さん
お医者さん
最近は本当にテクノロジーの発展がすごいな。コロナ禍の影響もあってだろうが、医療の世界でも急速にデジタル化が進んでいる印象だ。医者の仕事がAIに奪われる、なんてことを言う人もいるし。
お医者さん
お医者さん
しかし、実際はどうなんだろう。機械が人間を診断する、なんて未来がやってくるんだろうか。
部分的にはそうなるでしょうね。ただ、医者がAIに仕事を“奪われる”っていうのは少し違う気がします。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
部分的には? ……まあ確かに、定期的に薬を出すだけ、みたいな診察なら可能か……。って、君は一体?
はじめまして、ドクターアバターの絹川です。お医者さんの様々な相談に乗りながら、「アバター(分身)」としてお手伝いをしている者です。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
へえ、じゃあ、医者のAI化、みたいな話も詳しいってことか。仕事を“奪われる”ってのは違うって話だったけど、それってどういうことなの。
そうですね。確かにAI技術は日々進歩していて、内容によっては診察業務も可能になっています。そういう意味では、医者の仕事を部分的にAIが担うようになるのは間違いないでしょう。
絹川
絹川
一方で、人間としての医者とプログラムであるAIとが、「対立的に仕事を奪い合う」という図式で見てはいけないと思うんです。どちらかと言えば、医療AIというのは「医者のコピーロボット」になっていくだろうというのが私の見立てでして。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
医者のコピーロボットだって? なんだねそれは。
つまり、AIは「敵」じゃなく「味方」ということです。AIという「容れ物」に先生の持つデータや経験をインプットすることで、「もう一人の先生」に育て上げていくイメージです。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
なるほど……なかなかユニークなことを言うね君は。つまり、AIの登場で仕事量が減るのは事実だが、それは私たち生身の医者が「必要なくなった」からではなく、AIを活用することで「今より低負担で仕事を回せるようになる」、ということか。
まさに仰る通りです! 要するにAIというのは「人手」なんですよ。実際は人格のないプログラムですけど、業務の一部を担ってくれる人手には違いないわけです。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
確かにな。私自身のコピーロボットでなくとも、看護師や事務員の業務の一部を担うAIというのも可能だろうし。しかも生身の人間の採用と違って、履歴書を送ってもらったり面接したりする必要もないわけだ。
そういうことです(笑)。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ともあれ、君の話はいささかご都合主義的な見立てという感じもするな。AIの開発側は、むしろ人間を介在させないシステムを作りたいんじゃないのかね。それこそ「医師の必要ない時代」を実現できた方が、彼らは儲かるじゃないか。
さすが鋭い指摘です。実はそこには、開発側がどうしても超えられない一線、究極の課題があるんです。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
究極の課題? なんだねそれは。
端的に言えば、「責任の所在」の問題です。つまり、AI自身には責任を取る能力がない。AIで完結する医療システムは理論上実現可能なんです。しかしそこで何か問題が起きた時、「誰が責任を持つのか」という話がどうしても出てくる。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
なるほど。そこにはやはり人間が必要になるってことか。
ええ。だから彼らも「最終的には医師の責任」という医師法に則ってシステムを作らざるを得ない。そういう事情からも、AIは敵にはならない、より正確に言えば、法律や倫理的ハードルから現状は敵になり得ない、という憶測が立つわけです。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ふむ。なるほど納得感はある。
ええ、ということなので、マインドセットとしては「AIにどう勝つか」ではなく、「AIをどう活用するか」の方向ですね。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
私のコピーロボット、だね。
仰るとおりです(笑)。具体的な活用法などもアドバイスできますので、ご興味があればぜひお声がけください!
絹川
絹川

医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。


著者:ドクターアバター 絹川 裕康

株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。

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