第62回 売上で競わせない評価システム

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第62回 売上で競わせない評価システム

安田

万代さんは、店舗同士を売上や利益で競わせないという方針なんですよね。一般的に経営者は店舗同士で「売上ナンバーワン」や「利益トップ」を競わせることが多いですが、それは行っていないと。


倉橋

その通りです。もっとも、各店舗の売上や利益は社内でオープンになっているので、どこの店舗が一番売上が高いかとか、あるいは黒字なのか赤字なのかも一目瞭然です。だから順位を付けようと思えば付けられるんですけど、そこで競わせることはしていませんね。

安田

それは倉橋さんのポリシーなんですか?


倉橋

それもあるんですけど、そもそも店舗ビジネスって、どうしても規模や立地条件、業態の違いによって差が出てくるんです。そこは会社の方針によるもので、店舗で働くスタッフたちが自分たちで決めたわけじゃない。結果、数値だけで評価するとどうしても不公平感が出てくるんです。

安田

ああ、確かにそうですよね。数値が悪いから頑張ってないかというと、そんなこともないと。


倉橋

そういうことです。だからといって全く競わせていないわけではなくて、売上や利益ではなくCS(顧客満足度)では競わせています。笑顔で接客できているかとか、店舗のトイレが清潔に保たれているかなど、サービスの質を数値化してランキングにしているんです。

安田

ははぁ、なるほど。おもしろいですね。でもそこってなかなか数値化しにくい部分じゃないですか?


倉橋

そうですね。でもできるだけ公平に数値化するフォーマットを作成して、毎月データとして数値が出るようにしています。

安田

なるほどなぁ。接客態度や店舗の清潔さだったら、本人の努力でなんとかなるところで評価してもらえると。…でも経営者の本音としては、売上や利益は増やしていきたいわけでしょう? そこを評価ポイントにしたくなりませんか。


倉橋

うーん、売上や利益につながるようなアクションプランって、店舗独自で作るのではなく、会社全体で作っていくものだと思うんです。実際、出店する物件は社長が決めるし、どんな業態にするかも会議で決まる。それでもし赤字になったら、会社の責任であり、社長の責任なんです。

安田

ははぁ、なるほど。そこを現場の社員のせいにはしないわけですね。


倉橋

しないというか、実際彼らのせいじゃないんです。一人ひとりの努力ではどうにもならない部分なので。一方でCSは、個人の意識によるところが大きい。つまり本人次第で評価を上げられるんですよ。だったらそこで評価してあげた方が、本人的にも納得感があるよなと。

安田

なるほどなぁ。確かに「売上目標や利益目標を個人に設定すべきかどうか」という点は、よく経営者同士で議論になるテーマなんですよね。ただ結論としては、「個人に設定しないと管理ができない」という意見の方が圧倒的に多くて。


倉橋

確かにそうでしょうね。売上や利益の数字で管理するって、やっぱりわかりやすいですし。

安田

そうなんですよね。一方で、目標を個人に持たせずプロセス重視の管理で成功している企業もある。倉橋さんはこちらのタイプなんでしょうね。


倉橋

そうなりますね。というのも、万代のような店舗ビジネスでは、常に投資も考えなければいけないんです。そこで目の前の売上や利益だけを追いかけていると、単月で儲かることばかりやりたくなってしまうんですよ。

安田

ああ、確かに。短期的な数字しか見えなくなって、長期的な計画が考えられなくなるんですよね。

倉橋

そうなんです。例えば今は9月ですけど、3ヶ月後の12月や1月の繁忙期に向けて準備していなきゃいけないタイミングです。でも毎月の利益ばかりを考えていると、先の準備や投資のことがおざなりになってしまう。

安田

ああ、なるほどなるほど。リソース自体は変わらないから、今のことに100%使ってしまうと未来のことを考える余裕がなくなっちゃうわけですね。

倉橋

そうなんです。目の前の利益を考えれば、今ある商品を売りたくなりますから。でも長期的に考えたら、そこを焦るより、お客様の信頼を得ることの方が大切なわけで。

安田

そうそう。そこのバランスをどうコントロールするかが経営者の腕の見せ所で。でも多くの経営者は短期的な数字で判断してしまうことが多いですよね。

倉橋

気持ちは非常によくわかりますけどね(笑)。でもそれだと会社の成長の伸びしろが減ってしまう気がします。ビジネスの成長には、種をまき、収穫するタイミングを見極めることが必要ですからね。そのためにはある程度の時間はかかるわけで。

安田

目の前の小さな商談を全て刈り取ろうとしていると、大きな利益にはつながらないんですよね。売上には波がありますし。そしてその波を最大化することを考えると、プロセスの管理の方がいいと思います。

倉橋

そうですよね。毎月の売上管理だけでは、そもそもその波に気づくことも難しいかもしれない。

安田

そうそう。私は今個人事業主だから自分で意識すればいいですけど、人を雇っているとそこまで余裕を持って経営できるかなと。社長の器が問われる部分なんでしょうね。

倉橋

それは本当に難しいです。ハラハラしっぱなしですが、それが経営の醍醐味かもしれませんね。


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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