第63回 商品開発でのマーケット分析の活かし方

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第63回 商品開発でのマーケット分析の活かし方

安田

今日は商品開発や事業の立ち上げでよくある、アンケートやマーケット分析について話したいと思います。私は競合他社の商品とかをあまり調べずに事業を考えるタイプなんです。アンケートやマーケット分析だけで売れるなら苦労しないんじゃないかと思っていて。


倉橋

確かに、情報だけでは足りない部分も多いでしょうね。

安田

ですよね。とはいえ情報も全く必要ないかというとそうでもない。全然売れなさそうな商品の情報は知っておいた方がいい気もしますし。例えばお菓子の開発なんて、1000個のうち3個ぐらいしかヒットしないらしいんです。


倉橋

ははぁ、それはなかなかの低確率ですね。

安田

そうなんです。基本的にどこのメーカーもアンケートやマーケット分析はしているでしょうから、それをやってなおこの確率ということです。つまりヒット商品を作るってそれくらい難しいわけですよね。だからこそ、万代さんではどうやっているのか聞いてみたくて。


倉橋

それでいうと、アンケートもマーケット分析もけっこうしている方だと思いますね。SNSや店舗で、お客様とのつながりをしっかり持つようにしていますし。これからは特に「顧客情報の管理」がすごく大事になってくると思うんです。

安田

ああ、なるほど。確かに万代さんはお客さんと積極的に交流しているイメージです。


倉橋

ええ。お客様って、常に接点を持っていないとお店やサービスのことなんてどんどん忘れていってしまうんです。例えば飲食店の常連客が10人いたとして、1年で2人は来なくなってしまうらしいです。つまり何もしなければ20%の顧客が毎年失われていく。

安田

ははぁ、なるほど。確かに100%定着するのは難しいでしょうけど、かといって20%の流出を放っておくのはあまりにも勿体ないですね。だからこそ顧客との接点を持ち続けることが大事だと。


倉橋

そういうことです。中でもSNSはアナログなアンケートよりも本音が書かれやすいので、顧客のリアルな意見を得るのに有効です。それにSNSでつながっていれば、こちらの発信を見て「久しぶりに行ってみようかな」と思い出してもらいやすくなる。

安田

ははぁ、確かに。それがSNSの強みですね。とはいえ細かな対応が必要だったりして、それなりに大変ではあるわけですが。


倉橋

そうですね。ちなみに商品の価格帯によって対応の中身はけっこう変わるんですよね。一般的に低価格の商品の場合、積極的な発信が効果を出しやすい反面、顧客数が多いので個別対応が大変になります。

安田

なるほどなるほど。逆に高価格商品の場合、顧客数が多くないから個別対応はそこまで大変じゃないけど、深い付き合いをしていないと簡単には再購入してもらえなさそうです。


倉橋

まさにそうなんです。高級スーツとか高級バッグとかはその典型ですよね。お得意様としっかり繋がっていないと、次はどこか別のブランドに買いに行かれてしまう。

安田

確かになぁ。そういう話を聞くと、やっぱり顧客の嗜好や心理状態を知るためにもマーケット情報は必要なのかもしれませんね。一方で、あまりに顧客の意見に引きずられるのもリスクになるというか。


倉橋

それはそうですね。例えば「こういう商品を扱ってほしい」というご意見をいただいても、「はいわかりました」とすぐ対応できるわけじゃないですからね。そこには常に慎重な判断が必要になるわけで。

安田

そうですよね。そういえばペットボトルのお茶で「生茶」という商品がありますけど、開発段階でのアンケート調査では「このネーミングなら飲みたくない」という意見が圧倒的だったらしいんです。「生」という表現が「生臭そう」と感じるらしくて。

倉橋

へぇ。でも実際に発売したら爆発的に売れましたよね。アンケート結果で商品名を変えてしまっていたら、このヒットはなかったかもしれない。

安田

そうなんですよ。「市場調査で得られた意見が必ずしも正しいわけではない」という良い例ですね。一方で、日産の例ではマーケット主導で作った車が全然売れなかったという話もあります。

倉橋

お客様は基本的に「自分が経験したことの延長」で意見を仰るので、新しいアイデアが受け入れられにくいということはあると思います。それを踏まえた商品開発をしないといけないということですね。

安田

同感です。私はよく商品開発の現場で「最後は必ず社長が決めてください」と念押しするんです。「社内アンケートで皆が売れないって言う」とか「社員がお客さんに聞いたらいらないって言われた」という理由で方針を変えてしまう経営者さんも多いので。

倉橋

わかります。一方でポジティブな意見は手放しに信じてしまったりする。それはそれで注意が必要なんですよね。商品って多数決で売れていくわけじゃないので。

安田

本当にそうなんです。結局、社長の感性や決断力が何よりも重要なんです。だから、周りの意見に流されやすい経営者さんには「社内ではこれ以上聞かないでください」とまで言う時もあります(笑)。

倉橋

不安があるとどうしても聞きたくなってしまうんでしょうね。ただ多数決で進めると、どうしても無難な選択になりがちなので、僕自身は避けるようにしています。もちろん、アンケートの中にすごくおもしろいアイデアがあったら、採用することもあるんですけど。

安田

うんうん。それこそ「社長の感性や決断力で採用する」ということですもんね。そう考えると、アンケートで市場調査をするなら、多数決のためにやるんじゃなくて、おもしろい意見や新鮮な切り口のためにやるのがいいのかもしれない。

倉橋

ああ、確かに。多数決ではなく、一本釣りでいいネタを見つける方が成功する確率が高いと思います。僕も今までたくさん反対されながらやってきましたけど(笑)。

安田

私もそうですよ(笑)。新しい商品が売れるかどうかって、社長が商品のポテンシャルを信じ切れるかどうかにかかっていたりしますよね。


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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