第74回 万代が「安い」けど「安売りではない」理由

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第74回 万代が「安い」けど「安売りではない」理由

安田

最近は「社員の給料を上げるためには、商品やサービスの価格を上げるしかない」という声が増えてきましたよね。「いかに付加価値をつけて高く売るか」が社長の仕事だ、という認識も広がっている気がします。


倉橋

そうですね。少しずつ経営者の感覚も変化してきたのかもしれません。

安田

でも万代さんは「安くたくさん売る」という方向に舵を切ってますよね。それって時代と逆行しているようにも思えるんです。資本力のある大手だったらそういう戦略もわかるんですけど、ディズニーですら「高くて便利な遊園地」に完全に切り替えているわけで。


倉橋

確かに、なるべく安くたくさんの方に楽しんでいただきたいとは思っています。ただ万代としては、「たくさんのお客様に来ていただく」ということを一番大事にしているんです。だから営業時間もできるだけ長くしますし、価格もなるべく高くならないようにして。

安田

ははぁ、なるほど。ウチの近所のスーパーもそのやり方で繁盛しています。24時間365日オープンしていて、いつでも新鮮なものを安く買える。


倉橋

スーパーはそうやって拡大してきましたよね。そういう意味では「王道の戦略」と言ってもいいと思います。

安田

確かに。とはいえ今は時代も変わって、長時間労働では働き手も集まらないし、あまり安くしすぎると、高くても価値のあるものを求めている人が来なくなってしまいませんか?


倉橋

それもあるとは思います。実際、高級料亭の味やサービスを望んでいる人はファミレスには行きませんからね。

安田

そうですよね。特に今は「高くてもここで食べたい」というお客さんに絞って、しっかり利益を追求する経営者さんが増えていると思うんです。そんな中で、万代さんが「安くたくさん」という、ある意味昔ながらのスタイルを貫いているのはどうしてなんですか?


倉橋

実は昔ながらのスタイルのように見えて、一つだけ違う点があるんです。それは「ローカルエリアに展開している」という点で。

安田

ほう、なるほど。確かに万代さんは都心ではなく、北海道や東北を中心にどんどん出店してますね。


倉橋

ええ。たとえどんなにいい戦略でも、ライバルが一つでも増えればマーケットのシェアは取りにくくなります。それなら「ライバルがいないところ×王道の戦略」で戦えば、シェアがとりやすいのでは、と考えたんです。

安田

なるほどなぁ。ただね、これは私の先入観もあるかもしれないんですが、安さを求める人って要望が強すぎる気がするんです。例えば「コンビニの接客サービスが悪い」と店長を呼び出したり。コンビニに一流ホテルの接客を求めてしまうというか。


倉橋

確かにそういう話はよく聞きますが、僕たちが狙っているターゲットはその層ではないんです。いわば「普通の人々」というか、今までの経済状況だったら夏休みやお盆に家族旅行に行っていたような人たちです。

安田

そうかそうか。生活必需品をとにかく安く買いたい、という層とはちょっと違うと。そもそも万代のお店に遊びに来るお客さんは、余暇を楽しみに来てるわけですもんね。

倉橋

そうなんです。そういう一般的な家庭で、所得が上がらず物価だけが上がってしまった結果、今までできていた家族旅行にも行けなくなっているんですよね。

安田

ははぁ、なるほど。一般的な家庭の世帯年収が下がっているから、その人たちが楽しめる金額設定にしているわけですね。しかも特に安売りしているというわけでなく、他の娯楽が高くなりすぎていて、万代さんが相対的に安く見えると。

倉橋

そういうことです。移動費も宿泊費も、軒並み上がってますからね。SNSを見ていても、家族で遊びに行ったという投稿を見かけることが極端に減りましたし。選挙で「手取りを増やす」という公約が支持されたのも、それだけ手取りが上がっていないからで。

安田

確かにそうですよね。昔は年収3000万円を超えたら半分国に取られるぞ、なんて言われてましたけど、今は普通のサラリーマンでも会社が支払っている社会保険料と合わせたら半分ぐらい引かれてますからね。

倉橋

そうそう。でもその普通のサラリーマンの方々が、休日に家族サービスを何もしないということはないと思うんです。家族で過ごす時間は必ずあるわけで、万代はそこに対してPRしている、ということですね。

安田

ああ、そうか。普通の人々がお財布の心配をせずに家族皆で楽しめる場所を作っているということですね。それが万代さんのビジネススタンスだと。

倉橋

ええ、まさにその通りです。そういう場面で喜んでいただけるコンテンツを一つでも増やしていきたいなと。

安田

なるほどなるほど。ちなみにそういうコンテンツってどう考えるんですか?

倉橋

設定から考えていきますね。例えば「家族で2~3時間遊んで、多くても1万円以内に収まるように」というような感じで。

安田

ははぁ、2時間たっぷり遊んで1万円ですか。それは安いですねぇ。

倉橋

ありがとうございます。日曜日の昼食後の午後2時から5時くらいまでを我々は「ゴールデンタイム」と呼んでいるんですが、その時間帯に家族皆で遊べるようなコンテンツ作りに一番力を入れています。

安田

なるほどなぁ。子どもがいると、そういうお店の存在が本当にありがたいんですよね。安売りをしていないのに、「万代=安く楽しく遊べる場所」になっている理由がよくわかりました。


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

Twitter  Facebook

株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから