日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「中東では自由恋愛できないって本当ですか?(その1)」
回答
これはよく聞かれることの一つです。
イスラム教の厳格なイメージから、未婚の男女が接点を持つなどあり得ないと思われるかもしれませんが、実際見聞きするとそんなことはないように思います。
とはいえ、自由恋愛をする難易度は日本よりも高いと思いますが。
少し分量が多くなるため、数回に分けて回答します。
今回は文化背景について軽く触れましょう。
【恋愛と結婚は不可分?】
現地では恋愛と結婚がセットで考えられていて、結婚は家と家を結びつけるものという共通理解があります。
結婚というのは、イスラム教徒にとって重要なイベントとして考えられています。
当人の気持ちが大切なのは当然のことですが、それと同等以上に家族の問題でもあります。
そういう理由もあってか、親族が候補相手を連れてくるお見合い婚のケースが多いのは事実です。セッティングに動くのは主に母親で、自分の息子に合いそうな女性がいないか自分のネットワークをフル活用して探すとのこと。選定基準には学歴や家柄はもちろん、容姿、そして母親自身の好みなども含まれるでしょう。
要するに、親族が納得しない結婚はあまり好まれないということです。今でこそ、日本でこういう風潮は強くないかもしれませんが、以前はもっとあったように思います。
そういえば、日本に長期間住んでいたサウジの友人が「少し昔の日本人の考え方や生活習慣は、とてもイスラム的だと思う」と言っていたのを思い出します。
【女性は純潔を守らねばならない?】
中東の地域によっては、未婚の男女をむやみに接触させないような仕組みがあります。
日本の電車には女性専用車両が導入されていますが、エジプトやイラン、パキスタンといった国では日本よりもずっと以前から電車に女性専用車両がありました。
また、今は社会変革によって少なくなってきていますが、サウジアラビアではつい最近までレストランの入り口が男女別に設けられていました。
(↑日本関係のイベントの入口にあった看板。2017年撮影)
なぜ男女で空間を分離させるかというと、簡単に言えば女性の純潔性が重視されているからです。
どの程度重視されているのか。
極端な例を挙げると、婚前交渉をすれば死に繋がることもあります。
ただこれは、イスラム教圏ではないインドやヨーロッパでも見られることなので、あくまで宗教由来のものではなく単にその土地の風習であると前置きしておきます。
仮にある女性が未婚の状態で男性と関係を持った場合、それを知った家族や親族はどうするでしょうか? 我々は娘の父親が「娘をキズモノにしやがって!」と男性のもとに怒鳴り込んでいくシーンを思い浮かべるかもしれませんが、現地ではどちらかといえば女性側に非難の矛先が向く傾向にあります。
一族の顔に泥を塗ったと親戚から白い目で見られたり、最悪のケースでは命を狙われることもありますので、まさに命がけの恋です。
(繰り返しになりますが、これはイスラム教によるものではなく、もともとその土地にあった因習に由来するとされています。そのような慣習のないイスラム教の地域があり、反対にイスラム教地域以外で起こることもありますので、宗教と結びつけて考えないようにしてください)
冒頭で「難易度は高いかも」と書いたのは、こういった背景があるからです。
ちょっとハードモード過ぎやしないか、と思われるかもしれません。私もそう思います。
ですが、普通に考えて自由恋愛がゼロというのも不自然ではありませんか。
次回、いくつか事例をご紹介できればと思います。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。