第63回「サウジアラビアの人たちのアパレル事情を教えて下さい。普段も民族衣装を着ているのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「サウジアラビアの人たちのアパレル事情を教えて下さい。普段も民族衣装を着ているのですか?」

   回答   

私がサウジアラビアとのビジネスをしていると言うと、ときどき、現地の人はどんな服装をしているのかという質問を受けることがあります。
ある人にその疑問を持つ理由を聞いたところ、「メディアで見るのは男性は白、女性は黒の民族衣装というイメージだが、ずっとあの感じなのかが気になる」と言っていました。

ひとことで言ってしまうと、サウジの人々が着る服は我々とさほど変わりません。
たしかに、メディアで映されるようなフォーマルの場では民族衣装で登場することが多いですが、カジュアルな場ではシャツとジーンズにキャップを合わせる男性をよく見ますし、女性に関してもまだアバヤ(黒衣)やヒジャブ(髪を隠す頭巾)を着る傾向は見られるものの、着用が自由化されてからは街で見る服装も黒一色ではなくなってきました。

ドレスコードが緩和された今、ファッション分野でも変化が見られます。今回は変わりつつある、サウジアラビアのファッション業界にフォーカスしてみたいと思います。

【ファッションに特化した人材育成プログラム】
いまサウジアラビアでは、ファッション委員会が主催する『Saudi 100 Brands』というメンターシップ・プログラムが行われています。

内容を簡単に言うと、「サウジアラビアのファッションデザイナー100人を選抜し、彼らを経験豊富なメンター(=指導者)が様々なテーマに沿って1年間厳しく指導する」というものです。

メンターを務めるのは、主にイギリスやフランス、イタリアなど西洋の国々でファッション分野において教育実績のある人や、LVMH、Burberry、Gucciをはじめとするラグジュアリーブランドとの仕事経験を持つような、いわゆるエキスパートたち。
指導内容は幅広く、ブランディング、コンセプト立案、販売戦略、広報・マーケティング戦略、顧客ターゲティング、イノベーションとテクノロジー、リーダーシップスキルなどをカバーしており、これらを1年間かけて指導していきます。

主催のファッション委員会はサウジ文化省傘下の組織なので、主導しているのは政府です。
応募要件は、18歳以上かつサウジ国籍でサウジ在住であり、1年以上存続実績のあるブランドを持っていること。
参加費は政府負担のため、選抜者は原則無料でこのプログラムに参加できます。
現在すでに1,500人の応募者のなかから100人が選ばれ、様々な活動が行われている模様です。
一例として、7月末から8月初めにかけてニューヨークで彼らのブランドの展示会が行われましたが、この展示会は一般客の入場料まで無料に設定されていました。
なんと手厚いサポートでしょうか。
まさにいたれりつくせり、といった感じです。

(↑NYC展示会の広告。無料にできるのはシンプルにすごい)

【国によるファッション産業推進】
ファッション委員会のCEOを務めるBurak Cakmak氏によると、「サウジアラビアはファッションを含むすべての分野で成長軌道に乗っているので、地元の起業家にとっては新しいビジネスを構築する絶好の機会」とのこと。
これまで各方面での規制が多かった国ですから、「開国」にともなって様々な分野で産業が芽生えつつあり、ファッション分野もその一つなのです。


(↑公式サイトより。Burak氏は「Saudi 100 Brandsのようなプログラムを通じて、サウジアラビアのデザイナーが世界の舞台で正当な地位を占めることを期待する」と述べる)

自国に埋もれる才能を発掘し、サウジアラビアのファッション業界におけるデザイナーやその他関係者のレベルを、国内のみにとどまらず国際的な舞台でプレイヤーとして十分に振る舞える水準へ持っていく。

こういったところからも、「石油以外の産業を育てたい」という政府の大きな方針に沿って、各分野で様々な動きがあるのを確認できます。ファッション分野は、これまで掛かっていた様々な制限によって「タメ」が効いている分、大きく伸びることが期待されます。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

【お知らせ】
ポッドキャスト始めました。
中東や東南アジアを中心に、海外の文化(ときどきビジネス)について喋る番組です。
番組名: Friday Airport Lounge
毎週金曜17時更新
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