第6回 リフォームによって受け継がれる価値

この対談について

母から受け継いだ指輪をネックレスに、片方なくしたピアスをペンダントに、思い出の詰まった2つのリングを溶かして1つに――。魔法のようにジュエリーを生まれ変わらせるジュエリー修理・リフォーム専門店「Refine」(リファイン)。代表の望月信吾さんに、お客様に感動を届けるジュエリーリフォームの魅力、そして波乱万丈な人生についてお聞きする対談企画です。

第6回 リフォームによって受け継がれる価値

安田

前回はジュエリーに込められたパーソナルな価値「大切価値」についてお聞きしましたね。市場価値だけじゃなく、ジュエリーに込められた想いを推し量ることも重要だと。


望月

そうですね。「お客様にとって、そのジュエリーがどんな存在なのか」によって価値は大きく変わってきます。修理やリフォームを担当させてもらう我々も、そこに敏感でなければならないなと。

安田

なるほど。実際、思い入れがあるからこそ修理やリフォームを依頼されるわけですもんね。


望月

仰るとおりです。そのためにもお客様のご要望をヒアリングすることが大切になってきます。「何とか1回でも使えればいい」という方もいれば、「娘にあげるためにリフォームしたい」という方まで、目的は様々ですから。

安田

なるほどなぁ。ちなみに実際にリフォームを受ける場合は、お客さんの思い入れやストーリーに沿ったデザインを提案することになるんですか?


望月

もちろんそれは意識します。とはいえ、ジュエリーってすごく小さいでしょう? あの数センチの中でできることには限りがありますし、何よりジュエリーは「身につける」ことに意味があるので、トレンドなども加味しながらデザインを提案することが多いですね。

安田

ふーむ、なるほど。「石はそのまま活かして金属部分を今風のデザインにリフォームする」みたいなイメージでしょうか。


望月

石が入っているものについてはまさにそういう感じです。石が入っていないものの場合、例えばプラチナの指輪であれば、一旦それ自体を完全に溶かして、一から新しいものを作ることもありますね。

安田

なるほど! 金属だとそういうこともできるんですね。想いは受け継ぎつつ、まったく新しいデザインに変えることができてしまう。


望月

そうそう。たとえば娘さんがお母さんから「これは結婚する時お父さんからもらったものなんだよ」と指輪を受け継いだとします。娘さんもその想いは受け継ぎたいんだけど、デザインがちょっと…というときなんかに、リフォームはすごく便利で。

安田

それすごくいいですね! お母さんとしては想いを受け継いでもらえて嬉しいし、娘さんも無理して身につけるわけじゃない。まさにウィンウィンですよ。ちなみに、依頼されるのはどれくらいのランクのジュエリーが多いんですか?


望月

それはもう、まちまちですね。海外のお土産屋さんで数千円で買ったものもあれば、200万円~300万円くらいする大きなダイヤの指輪が持ち込まれることもあります。

安田

ははぁ、やっぱり市場価値じゃなく「大切価値」の方が重要なんですね。とはいえ、さすがにおままごとで使うようなオモチャが持ち込まれることはないでしょう?


望月

さすがにそれはないですけど(笑)。でも、いわゆる「偽物」の場合はありますね。先日も「30年前にオーストラリアで買ったオパール」のリフォームをご依頼されたんですが、実はそれは合成されたもので。

安田

なるほど。ジュエリーのプロである望月さんに、偽物だと鑑定されてしまったと。お客さんはショックでしょうねぇ。30年間本物だと思って大事にしてきたんでしょうし。


望月

ええ、こちらとしてもなかなかお伝えしづらいところで(笑)。

安田

笑。ちなみにいわゆる宝石というのは劣化しないんですか? 何十年も経つと輝きが劣化してくるというような。


望月

宝石の種類によって違うんですが、例えばダイヤは何百年経っても劣化することはないと言われています。ただ、色石なんかは石の中にもともとあった傷が徐々に見えるようになることはあるので、100%同じ状態が保たれるというわけでもないんですけど。

安田

へぇ〜、そうなんですね。確かにそれは「劣化」とは違う気がします。


望月

とはいえ、やっぱり持ち主としては気になりますよね。それにダイヤはまだましな方で、エメラルドは5大宝石の中でも一番石の中に傷が多いんです。「癖のない人間と傷のないエメラルドはない」とも言われるくらいで(笑)。

安田

笑。でも、どういう原理で傷が浮き出てくるんですか?


望月

正確に言うと、石の中の傷が見えないように特殊なオイルを入れているんですが、そのオイルが乾燥したり少しずつ抜けたりすることで、傷として見えてしまうようになるんです。

安田

なるほどなぁ。ちなみに先ほどの話のように、いざリフォームしようとしたら本物じゃなかったという場合、皆さん「本物じゃないならやっぱりリフォームしなくていい」となるんですか?

望月

それでいうと半々くらいですかね。

安田

へぇ! 半分の方は合成品でもリフォームをすると。ちょっと驚きです。でもまぁ、別に市場で売るわけじゃないわけで、本物かどうかはあまり大きな問題じゃないのかもしれませんね。

望月

そうかもしれません。他にも古いデパートの箱に入った指輪を持ってこられたお客様がいらっしゃって。「デパートで買ったものだから本物だと思う」と仰るんですが、一目見てガラスだとわかるようなものでして。

安田

えっ? デパートで買ったのに本物じゃなかったんですか?

望月

というよりは、本物の石として販売はしていなかったと思うんです。ただどこかでその記憶がすり替わってしまったのか……それでも「大切な人からもらったものだから、本物かに関係なくリフォームしたい」という方もけっこういらっしゃいますね。

安田

なるほどなぁ。やっぱり本物かどうかよりも「誰からもらったか」がその人にとっての価値になるわけですね。

 


対談している二人

望月 信吾(もちづき しんご)
ジュエリー工房リファイン 代表

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25歳で証券会社を退社後、父親の経営する宝石の卸会社に入るが3年後に倒産。その後独立するもすぐに700万円の不渡り手形を受け路頭に迷う。一念発起して2009年に大塚にジュエリー工房リファインをオープンして現在3店舗を運営。<お客様の「大切価値」を尊重し、地元に密着したプロのサービスを提供したい>がモットー。この素晴らしい仕事に共感してくれる人とつながり仕事の輪を広げていきたいと現在パートナー募集中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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