第13回 「総合化」する企業と「専門化」する消費者

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国13店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第13回 「総合化」する企業と「専門化」する消費者

安田
私の出身地である大阪の道頓堀に、「くいだおれ」っていうお店があって。1階から5階まであって、蕎麦から中華から和食から何でも食べれるようになっていて。

倉橋

ああ、有名なお店ですよね。閉店しちゃいましたけど。

安田
そうそう。大阪で一番人通りが多いところにあったのに潰れちゃったんですよね。結局今の消費者って、何でも食べられるお店でとんかつを食べるより、「薩摩黒豚のヒレカツ専門店」で食べたいっていう人が多いってことですよね。

倉橋
仰るとおり、消費者の価値観が変わってきましたよね。
安田
お客さんのニーズとして、「専門化」の方に進んでいるように見えるわけです。とはいえ、スーパーのような「総合化」した店舗がなくなって全部が専門化するとも思えない。

倉橋
僕たちの業界で言ったら、総合化の一番わかりやすい例が「百貨店」です。「全てのものを扱っていますよ」というのがウリだったわけですが、今は百貨店ってどこも厳しいと言われてますね。
安田
厳しいですね。本業で利益を出してるところなんてほとんどないんじゃないかな。

倉橋
「全部があって便利」というマーケットは、コンビニが全部持っていってしまいましたよね。他はもう存在できなくなってきている。
安田

ええ。例えば弁護士業界も、「何でも引き受けます」というタイプの人が集客に困っていて、「離婚に特化しています」「女性からの依頼中心です」と、何らかの形でターゲットを絞っているところにお客さんが来ている。


倉橋
ああ、なるほど。
安田
一方で、ある程度大きな弁護士事務所になると、「総合弁護士事務所」という形に持っていかざるを得ない部分もあって。

倉橋
余りにニッチな市場だと、お客さんの母数が減ってしまいますもんね。だから大手になればなるほど、ターゲットを広く浅く設定するしかなくなるんだと思います。
安田
でも、Amazonとか楽天はありとあらゆるものを置いていて、言わばオンライン上の百貨店なわけですが、お客さんはたくさんいますよね。

倉橋
そこについては僕はちょっと視点が違っていて。Amazonはあくまでモールという「場所」を提供しているだけで、そこに来ているお客さんは、やっぱり専門性のある商材を買っているように思います。
安田
なるほど。Amazonという何でもあるモールにやってきて、普通の鶏肉じゃなく薩摩地鶏を買っていく。つまりやはり顧客のニーズは「専門化」していると。

倉橋
そうだと思います。買い物の流れとしても、「とりあえず百貨店に行って、そこでいいものを見つけたら買おう」ではなくなっている。あらかじめ自分の好みに合った商品を検索しておいてから、それをピンポイントで買いに行くイメージですよ。
安田

ははぁ、確かに。私自身ZOZOTOWNで服を買うにしても、チェックするブランドって3つぐらいしかないですから。全部のブランドなんてとても見てられない。


倉橋
そうですね。僕も自分の店舗では「ウチは専門性が高いですよ!」というPRをよくします。
安田
なるほど。ということは企業がどんどん大きくなって「総合化」しそうになっても、消費者に対するアプローチはニッチにやっていく必要があるってことですね。

倉橋
まさにそういうことだと思います。
安田
言われてみれば、お菓子メーカーもそうですもんね。森永とかグリコのCMじゃなくてそれぞれの商品のCMをやっている。

倉橋
ええ。つまり消費行動が総合化と専門化に二極化してるんじゃなく、全体として専門化の方に向かっているということだと思います。
安田
そうなんですね。ちなみに経営手法として組織を「総合化」していくのはありなんですかね。ルイ・ヴィトンはヘネシーを巻き込んだり、いろんなブランドを買っていっていますけど。

倉橋
う〜ん、そのメリットは「安心である」というだけじゃないんですかね。
安田
なるほど。ちなみに企業自体は今後「総合化」か「専門化」か、どちらに向かっていくと思いますか?

倉橋

先ほども言ったように、販売の仕方は間違いなく専門化されていくと思います。で、企業としての拡大は、その専門化されたものを束ねていくようなイメージなんじゃないでしょうか。

安田
束ねていくというと、例えば今まではピラミッドのように会社全体を捉えていたのを、プロジェクト単位で分けて考える感じでしょうか。

倉橋
仰るとおりです。規模を拡大していくとしても、そういうやり方が求められると思います。
安田
例えば万代さんはけっこうニッチな市場じゃないですか。その中でもさらにニッチに分割して、「この部分の専門化」とか「この部分だけ集めた場所」とか、そういう売り方をしているんでしょうか。
倉橋
ええ。例えば農機具だけの専門店を作るとかね。その分野に詳しい専門のスタッフを置いて、プロショップだということを顧客にわかっていただいて。
安田
ははぁ、なるほど。ゲームやおもちゃを売る時も、ニッチに絞り込んだ方がいいんですか? たくさんの商品が総合的に並んでいた方がいい気もしますけど。

倉橋
どんなものを売るにも、「爆発限界点」というのがあるんです。例えば2mの範囲で商品を陳列したらすごくよく売れたとします。それを4mと広げてもさらに売れていると。それなら4mを8m。8mを16mと広げていく。
安田
どんどん増やしていくんですね。
倉橋
ええ。でも、ある地点で急に勢いが止まるときがあるんですよ。
安田
へぇ。そこが「爆発限界点」なわけですか。
倉橋

そうです。この商材は8mまでは爆発するんだな、ということがやってみてわかるわけです。そうなったら16mまで広げても意味はないわけで。

安田
なるほど。それは物によって違うわけですか。
倉橋
そうですね。山積みになっているのか10個ぐらいしかないのか、どちらの方がお客さんが買い物するときに心が動くかを考えて、一つ一つ心が動く動線を作っていくのが我々の仕事で。
安田
山積みした方がいいものもあれば、3個だけ置いている方がお客さんがガッと集まることもあるわけですね。
倉橋
そういうことです。その爆発をどれだけ作っていけるか。お客さんの心が動く瞬間をどれだけキャッチして展開できるかが腕の見せ所ですね。


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に13店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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