webの中の私

今や世界はふたつになった。
物理ワールドとwebワールドである。
少し前までこのふたつは
リアルとヴァーチャルという関係であった。
現実と幻想。
webの中で起こっていることは
映画やドラマで起こっていることと大差ない。
その程度の捉え方だったと思う。

だが今ではそこで行われていることは
完全に現実世界とリンクしている。
webワールドで有名になれば
物理ワールドでも有名になり、
webワールドでお金を稼げば
物理ワールドの銀行口座に振り込まれる。

webワールドで血を流せば
物理ワールドの私も血を流す、という関係が
完全に出来上がっているのである。
この衝撃的なルール変更の意味を
多くの人は理解していない。
何気なく呟き、何気なく見せ、
何気なく書いていることの意味を。

買い物をする、調べ物をする、愚痴を書き込む、
知り合いとコミュニケーションする。
様々な目的で人はwebを利用している。
だがその主体はあくまでも現実世界にある、
というのが大多数の人の感覚だ。

現実世界の人間が使う便利なツールという位置付け。
だがwebはもうその次元を超えてしまっているのである。
webとはもうひとつの現実世界なのだ。
そこにはもう1人の私がいて、
もう1人の世界中の人々と、
もうひとつの人生を生きている。

重要なことはwebワールドと物理ワールドが
完璧にリンクしているという事実。
更にはwebワールドが物理ワールドを
はるかに凌駕する影響力を持っているという事実。
恐ろしいことに、その事実の重大さを
きちんと理解している人はほとんどいない。

webワールドでは物理的な制約がない。
時間的な制限もない。
そこでは地球の裏側まで瞬時に移動することが出来、
そこに記された情報は永久に保存され続けて行く。
情報が伝わる早さ、正確さ、量、
保存期間のいずれにおいても、
物理ワールドの比ではない。

そこでの評判は現実社会における
私の評判とイコールであり、
そこでの財産は現実社会における
私の財産とイコールである。
いや違う。
もはや現実社会を超えている。
人々は現実の私ではなくそこに書かれている私を信じる。

webワールドでの影響力、webワールドでの人気、
webワールドでの評価。
それが物理ワールドにおける私に、
とてつもない影響を与えるのである。
五年後、十年後、二十年後の物理世界の私。
そして私の人生。
それは今この瞬間に、
webワールドにおいて作られているのである。

 


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