このコラムについて
経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週木曜日21時。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。
『ヤンヤン 夏の想い出』に感じる夢の美しさ。
エドワード・ヤンの作品は日本でも人気が高い。その中でも『ヤンヤン 夏の想い出』は傑作だと言えるだろう。少年、ヤンヤンの夏休みを描いた作品のように感じられるタイトルだが、どちらかというとヤンヤンは象徴的な存在で、彼を取り巻く人々の一夏の日々を追った作品である。
この映画が公開されたのは2000年。次作の制作中にエドワード・ヤン監督は亡くなってしまったので、これが遺作となった。2000年と言えば、すでに20年以上前の作品だが、この映画がいまだに支持を集めているのは台湾の中産階級の普通の人々が右往左往する姿が、私たちの20年前の姿とほとんど同じだという親しみやすさがあるからだと思う。また、出演者の中にイッセー尾形など日本人も複数いるということもあるかもしれない。
一人の人物に焦点を当てた物語ではないので、それに慣れた観客は少し道に迷うかもしれないけれど、逆に道に迷いながらいろんな人たちの気持ちの浮き沈みを眺めようとすると、これほど面白い映画はない。このちょっと視点を変えれば、というのがなかなか難しい。自分自身の慣れたやり方ではない、別のやり方を採用するなんて、特に売上をキープしなければと考えている経営者には至難の業なのかもしれない。だからこそ、映画くらい自由な視点で見てみるといいのかも…。
さて、この映画、あるストーリーと別のストーリーが少し重層的に進んでいくのだが、その中で重要な役割を担うティンティンという若い娘がいる。彼女は三角関係に悩み、物語の後半でお婆ちゃんにこんな話をする。「ねえ、なんで世の中って、こんなに夢と違うの?夢はあんなに美しいのに」と。普段なら、そら夢はきれいにきまってるよ。現実は厳しいんだよ、と思ってしまうのだが、この映画を見ているときに限って、「そうだよね。夢のように生きられればいいのにいね」と返事をしそうになってしまう。それは多分、この映画にきちんと厳しい現実が描かれているからだろう。
著者について
植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。