経営者のための映画講座 第9作目『エクソシスト』

このコラムについて

経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週金曜日21時。週末前のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。

『エクソシスト』に見る仕事への覚悟

映画『エクソシスト』が公開されたとき、私はまだ小学6年生だった。映画を見る趣味もなく、時々テレビで見る洋画劇場などでSF映画や西部劇を見るのが関の山。恐怖映画なんて自分から見るような子どもではなかった。

しかし、ある日、クラスメイトの一人が映画『エクソシスト』のパンフレットを学校に持ってきたのだった。それは彼の大学生になるお兄ちゃんが映画を見て買ってきたもので、彼は『エクソシスト』のストーリーと恐ろしさを事細かに聞かされていたのだ。もともと、人を驚かせることが好きなその級友は、パンフレットをめくり、そこに写っているおぞましい写真を指さしながら、まるで自分が映画を見てきたかのように語るのだった。おそらく、彼が語ったストーリーは実際の映画とは多少違っていたのだろうが、小学生の私たちを震え上がらせるのには充分だった。怖かった。写真の迫力と相まって、ウチダくんなどはほとんど泣いていた。

さて、『エクソシスト』を私が見たのはそれから数年してから。テレビの洋画劇場で放送されたときだった。我が家では家族そろって、この恐ろしい悪魔祓いの物語を見つめていたのだった。映画『エクソシスト』は二人の神父が悪魔に取り憑かれた少女に悪魔祓いの儀式を執り行う過程が描かれていくのだが、これがまるでドキュメンタリーのように詳細なのだ。彼らは悪魔と闘っているのだが、決してヒーローではない。あくまでも神に仕える神父であり、ある意味、彼らは淡々と仕事をしているのだ。しかし、この仕事は途中で決して手を引くことが出来ない仕事だ。

この時、私は思った。「神父という仕事はなんて大変な仕事なんだろう。自分の命と引き換えに悪魔祓いという仕事をしなければならないなんて」と。そして、そんな感想を口にすると、電鉄会社に勤務していた父は「まあ、父ちゃんの仕事も同じようなもんやけどな」と答えたのだった。確かにそうだ。安全に乗客を運ぶ仕事も途中で投げ出すことなんてできない。父にそこまでに覚悟があったのかどうかは正直わからない。しかし、そんなことを考える瞬間はおそらく何度かあったのだろうと思う。

しかし、今どきはネットビジネスを中心に、誰もがアイデアとフットワークで簡単にビジネスを始められる。そして、同じくらい簡単にビジネスを辞めてしまえる時代とも言えるだろう。だからこそ、自分たちのビジネスがどれだけの人たちに影響を与え、それを継続することがどれだけ重要なのか、ということを考えることが必要なのかもしれない。悪魔祓いの神父たちの覚悟を持てとは言わない。けれど、電鉄会社に勤務していた私の父と同じように、顧客のために自分を投げ打つことが出来るかどうか。そんなことを考える瞬間を持っているような人が経営する会社のサービスや商品のお世話になりたいと思う今日この頃である。

著者について

植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。

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