このコラムについて
経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週木曜日21時。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。
『真夜中のカーボーイ』に見る人材ビジネス。
原題は『Midnight Cowboy』、テキサスの田舎町からやってきたカウボーイがニューヨークの夜を生きるお話だ。つまり、邦題も『真夜中のカウボーイ』でいいはずなのだが、なぜかカーボーイとなっている。まあ、どちらでもいいのだが、少し気持ちが悪いので最初に説明してしまった。
さて、『真夜中のカーボーイ』である。一旗あげようとテキサスから出てきたジョー(ジョン・ヴォイト)が、ドブネズミのような暮らしをするラッツォ(ダスティン・ホフマン)と出会いどん底から抜け出そうとあがく物語だ。
ここでは、まだネット情報などない時代に、テキサスの田舎者がいかに情報弱者であったかがわかる。ニューヨークのマダムたちはテキサスの男らしいカウボーイに夢中になる。ジョーは本気でそう考えて女に声をかけるのだが、手練れの娼婦に逆に金を巻き上げられる。そして、知り合ったラッツォには仲介人を紹介すると言われ話に乗るが相手は男娼専門の仲介人だ。
いまでこそ、人材会社に登録すればどんな仕事でも紹介してくれる時代になった。しかも、無料で。だが、1960年代の終わり頃のアメリカでもまだまだ仕事の仲介業なんて怪しい輩が闊歩していた。それが性風俗の世界ならなおさらだ。
どうしようもないテキサスの田舎者と、ニューヨークのドブネズミは傷を舐め合うようにして暮らし始める。しかし、ラッツォの体は病に冒され始める。震えながらフロリダ移住の夢を語るラッツォ。二人はフロリダ行きの長距離バスに身を沈める。
この二人を見ていると、情報のなさが人をどこまで追い詰めるのか、ということに愕然とする。そして、何よりも人を絶望させるのは、無知の哀しみで尊厳を傷つけられた時なのだ、ということに気付かされる。
もちろん今だって、絶望を定員ギリギリまで詰め込んだ長距離バスは世界中を走り回っている。
著者について
植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。