第190回「大企業の終わりと優秀層の未来」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第189回「足元に迫るクライシス」

 第190回「大企業の終わりと優秀層の未来」 


安田

「ゼネコン四重苦」とか言われてまして。

石塚

ついこの間まですごく業績よかったのに。わからないですよねえ。

安田

まず豊作貧乏ってのがあるそうで。つくればつくるほど価格が下がっちゃう。

石塚

結局ほら、ゼネコンって建てるだけじゃないですか。

安田

はい。

石塚

デフレだから、工事代金の値下げ圧力がものすごくかかってくるんですよ。

安田

上流だから儲かるとは限らないんですね。

石塚

土地を仕入れて、ゼネコンに建てさせて、できたマンションを売っている会社は儲かります。

安田

そうなんですね。

石塚

これは一戸建ても同じ話で。ぜんぶの工程を握ってるところが、いちばん儲かる。

安田

ゼネコンといえども下請けみたいなもんですか。

石塚

建てるところしかやらないから。うまみが少ないってことですね。

安田

なぜ自分で土地を仕入れて、建てて、売らないんですか?

石塚

その発想がなかったんでしょうね。

安田

発想がない?普通に考えたらそこに行き着きますけど。

石塚

大企業のエリートは発想が凝り固まってるから。「工事っていうのは施主から発注されて、それを建てることだ。以上」っていう。

安田

そこまで思考停止してますか。

石塚

「ウチらも土地を仕入れて、売るところまで一気通貫でやろうぜ」なんて人はまずいません。

安田

ひとりぐらいいるでしょ。

石塚

いない。

安田

ホントですか。ゼネコンってかなり優秀な人がいるはずですけど。

石塚

優秀の定義もいろいろありますから。柔軟性には欠けますよね。それでも儲かってましたけど。

安田

いつからこんなに儲からなくなったんですか。

石塚

この10年ぐらいじゃないですか。

安田

へえ〜。

石塚

さっき言ったデフレの話ですよ。

安田

「現場に人がいない」とは聞いてますけど。その影響がゼネコンまで来ちゃったってことですか。

石塚

そうです。一方で工事代金の値下げ圧力もすごいから。

安田

安く売らなくちゃいけないし、原価は高いし。儲からないと。

石塚

昔はそこがまさに談合だったわけですよ。「これぐらいでいきましょうよ」って。だけど世の中的に「そういうのはやめろ」って圧力が強いじゃないですか。

安田

強いですね。

石塚

工事代金も自由競争させるし。大和ハウスみたいに「仕入れから売るところまで、ぜんぶやるよ」って会社も出てくるし。

安田

建てるだけでは厳しいですか。

石塚

はい。ゼネコンも垂直統合して、仕入れから売るところまでやらないと。もう乗り遅れてますけど。

安田

うちの近所は高層マンションがどんどん建ってますよ。大手ゼネコンは儲かってそうですけど。

石塚

いや。建築だけでは難しいです。だから大和ハウスは、バブルが崩壊した時にフジタという中堅ゼネコンを買収したんです。

安田

なぜ仕入からやったら儲かるんですか。

石塚

だって最初から最後まで全部やれれば、建設で儲からなくてもトータルで黒字にできるじゃないですか。

安田

つまり建設単体では利益が出ないってことですね。

石塚

そうなんですよ。

安田

なるほど。もう大手ゼネコンって学生に人気ないんですか。

石塚

いや、新卒の就活は常に20年ぐらい遅れてるので。

安田

なんと。

石塚

いまだに地方銀行を受けるような学生もいて。親世代もスーパーゼネコンの名前を聞けば「安泰じゃないか」なんてね。

安田

ゼネコンもだめ、金融もだめ、マスコミもだめ、広告系もだめ。となってくると、行くところがない気がするんですけど。

石塚

僕はグローバル企業に行ったほうがいいと思う。

安田

海外に転勤させられちゃう可能性もありますけれど。

石塚

それはしょうがないです。

安田

日本の労働法にも守られなくなりますよ。

石塚

もうそういう時代じゃないんです。大学でなにを学ぶかも逆算して考えないと。

安田

なぜグローバル企業がいいんですか?

石塚

風通しがいいし、仕事しながら常にキャリアを考えられるチャンスがある。

安田

転職も当たり前という感覚ですか。

石塚

もちろん。あとは日本の無名老舗企業もおすすめですよ。ちょっとぬるいけど絶対的に強い会社もあるので。

安田

極端ですね。

石塚

はい。超大手だったら、それこそ「川上から川下まで」すべて持ってる会社。それか規模をグッと小さくして、老舗で何百年とつづいているところに行くか。

安田

「大企業に入って人生を終える」ってのは、もう無理ですか。

石塚

安定を求めるなら老舗企業の方がいいです。

安田

大企業に入るなら安定を求めてはいけないと。

石塚

20代はもうそれに気づいてますよ。

安田

そうなんですか?就活が20年も遅れているのに。

石塚

就職してから気づく層がすごく多いです。「ああ、世の中こうなんだ」って。ちょっと遅いんですけどね。

安田

就職ガイダンスで教えてあげりゃいいのに。

石塚

むりむり(笑)学校自体が遅れてますから。そもそも同世代のトップ5%は全員起業するし。

安田

優秀な人ほど起業するみたいですね。

石塚

はい。そして次の15パーセントは複業市場に出ていく。自分がいる会社だけに縛られるという発想が、優秀な人材層にはもうないんです。

安田

「優秀な人材は囲い込めない」って言ってましたよね。

石塚

30から下は、もう自分のキャリアを労働市場とリンクさせながら、常に複線思考で考えてます。マルチストリームインカムが常識です。

安田

起業するか、複業フリーランスで稼ぐか。ってことですね。

石塚

それが優秀層の常識です。

安田

会社が抱えられるのは「それ以下の人材」ってことになりますね。

石塚

「言ったことをちゃんとやってくれれば十分」という体制をつくらないとダメ。

安田

やってくれるだけでありがたいと。

石塚

おっしゃる通り。「言われたとおりやってくれて、ありがとう」「おつかれさまです」っていう。これでやっていくしかない。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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